叶順子、一世一代の名演技 『黒の報告書』

1962年、黒のシリーズ2作目で、増村保造監督得意の裁判劇で、若い検事宇津井健の活躍を描く。

増村は、東大法学部では三島由紀夫と同級で、大映に入社後に暇だったので、その後大学にも通い文学部も出たという信じがたい秀才なのである。

千葉で会社社長の男が殺される(彼の姿は、一度も出てこない)。

凶器は花瓶の壺で、深夜帰宅した長男で劇団の演出家仲村隆によって発見された。

彼は言う、元バーの女で後妻の近藤恵美子が、恋人の神山繁と共謀したに違いないという。

社長の秘書で、彼への同情から肉体関係にまで行っていた叶順子も、二人が犯人だと証言し、現場から神山の毛や指紋も採取され、「簡単な事件だ」と次席の見明凡太郎からも言われて、簡単に起訴する。

見明は言う、「これが終わったら、君は川向う(東京)だぞ」

だが、最後まで神山は、自白しない。

                                    

そこに辣腕弁護士小沢栄太郎が現れ、叶に、社長が脱税のために彼女名義の預金1000年万円があったことから、これを上げることをエサに、小沢たちは、叶をはじめ多くの証人を買収して公判廷では、検事調書を翻してしまう。

そして、判決は無罪。

宇津井は、再度警察の刑事の殿山泰司と現地をしらみつぶしに再捜査し、電気屋小山内淳と村田扶実子夫婦から、事件当日神山が現場近くで血の付いた服を洗っていた証言を得る。

それを持って次席の自宅まで押しかけて控訴を訴えるが、すでに高検は控訴しないことを決めたと言われる。

そして、宇津井が千葉から青森への転勤に向かう日、叶が玄関に来る。

「私は偽証罪になっても良いから、あいつらを訴えて欲しい」と。

ここは叶順子の演技が素晴らしく、同じ増村の『妻は告白する』の若尾文子をも上回るものだった。

同僚の高松英郎は言う「後は引受けた」

駅に向かう車の中で宇津井は言う「また人を信じられそうになった、甘いかな」

テレビで一度見たことがあるが、やはり大画面で見ると迫力が違う。特に正義漢の宇津井の台詞が力強くて素晴らしい。

演技は、大声で怒鳴ることが第一と考えている私には、最高に楽しい作品だった。

やはり、増村は凄い監督である。

フィルムセンター

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