『地図のない町』

新文芸座の橋本忍特集、以前から見たいと思っていたが、なかなか上映機会のなかった中平康監督作品。

                             

途中から見て橋本得意の回想形式で筋がややわかりにくかったが、映画館で時間をつぶした葉山良二が、その裏にある家に行く。

彼は医者で、川崎池上にあった日本鋼管近くの不法占拠のスラム地域の診療所で、所長の宇野重吉を手伝っている。

川崎の市有地とされていて実景も撮影されているが、池上町の日本鋼管の工場の周囲にあった不法占拠エリアのことだと思う。

そこを市がスラムクリアランスして、鉄筋コンクリートの市営住宅を建てる計画が決まり、その工事の受託社として、滝沢修の土木会社梓組が住民の追い出しをする。

住民は、川崎競輪場の予想屋の小沢昭一、嵯峨善兵衛、工場で障害者になった浜村純など、いつもの連中。威勢の良い女将さんは三崎千恵子。

葉山の元恋人だった南田洋子は、借金苦から滝沢の二号になり、葉山の妹の吉行和子は、恋人の梅野泰靖と多摩川河川敷を歩いているところを梓組の男たちに暴行されていた。

いろいろ滝沢の悪事が積み重なり、ついに葉山は滝沢を殺そうと決意し映画館で時間をつぶして滝沢のところに行く。

この映画館は、オリオン館となっているが、平和通りにあった川崎国際劇場だと思う。今も平和通りにある三角の交差点も出てくる。

そして、滝沢の部屋に行くと、彼の背中にはメスが刺さっていて犯人は誰か、という風に最後は謎解きになっている。

音楽は黛敏郎、脚本が橋本忍と、まだ中平康がまともだった時代の作品であり、葉山良二が見る映画館の作品が、石原裕次郎主演、中平康監督の『狂った果実』の中平らしいお遊びもある。

1960年6月、日本にはまだスラム街があったのだなと思う。

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