『号笛なりやまず』

フイルム・センターの今月は追悼月間で、今日は小口偵三、小林米作、浅野辰雄という戦後の記録映画の撮影と監督の作品。

東宝の撮影者から岩波の制作者として活躍した小口の映画は、1948年の日本映画社作品『霜の花』。北大の中谷宇吉郎研究所との協力作品であり、これが岩波写真文庫、そして岩波映画になる。徳川無声ののんびりとしたナレーションと『ゴジラ』の伊福部昭の音楽。

小林は、『生きているパン』と『マリン・スノー』
微生物の微速度撮影で有名だった小林の撮影が美しく、また後者の間宮芳雄の音楽がさすがに素晴らしい。前者の音楽は全部既存曲のレコード。
だが、今日一番良かったのは、1949年国鉄労働組合の(一応新世界映画社になっているが)浅野辰雄監督、大沢幹夫脚本の『号笛なりやまず』だった。
完全に国労の資金で作った組合宣伝映画だが、おそらく日本映画史上では土本典明監督の『ある機関助士』と並び最高の蒸気機関車映画だろう。
国労60万労働者のプロパガンダ映画なので、貨物操車場での人力による貨物列車の入替え作業やSLの釜たき等の労働が克明に記録されている。
当時は、戦後の労働運動の最大の高揚期(東宝のストライキの同時期)で、労働者の苛烈な労働と、また男らしい作業、ある意味ではアクション映画とも見られる映像がとても上手くミックスされている。

職場の様子も非常に面白く、毎月の賃金を渡す場面があるが、なんと野外の操車場の一隅に机を置き、そこで渡していて、そこには様々な物売りの女性が来ていて、買物のやり取りをしている。
今でも、役所の庁舎内や地下では売店があり、物を売っているが、当時は野外でやっていたのだろう。

また、音楽が箕作秋吉なのが貴重。
彼は、日本の現代音楽の代表的な作曲家の一人だが、映画音楽は少なく、映画音楽は初めて聞いたが、日本的な調性を生かした響きが非常に良い。
中では、「雨や風には負けないが、かわいいあの娘にゃ負ける・・・」という演歌調の曲がおかしい。ハーモニカで奏でられるのが非常に胸にしみる。

浅野辰雄監督は、記録映画の他、末期の日活(ロマンポルノの直前で、『あるOLの告白』や応乱芳の『魔性の女』など最低の映画ばかりだった)やピンク映画の脚本も書いていて、大した監督じゃないと思っていたが、今日は見直した。
よく考えれば、アクション映画もプロパガンダ映画も煽情性では同じわけだ。
最後、国労の宣伝部分になると、今の北朝鮮並みの下から仰角で人物の顔を撮るカットが続出する。
どこも扇情的映像は同じなのだ。

帰りは、独身時代から行っている北品川の居酒屋に寄って戻る。
ここは、昔は職人ばかりで、ネクタイをした人間など少数だったが、今はサラリーマンばかり、カタカナの職業の女性も多い。
時代は変わったものである。

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