関川秀雄といっても今やほとんど知らないだろうが、昔は左翼監督としては、山本薩夫、今井正、家城巳代治の次くらいにランクされていた。
だが、本当に左翼的な作品があるかというとかなり怪しい。
東映での『きけわだつみの声』が代表作だろうが、その後は三流アクション映画ばかりである。
今週末、川崎市民ミュージアムで上映される『いれずみ無残』など、二流ヤクザ映画で、荒井千津子という体のでかい女優が裸になるだけにしか意味のない作品で、昔見たときは唖然としたものだ。
関川の本当に左翼的な作品は、黒澤明、山本嘉次郎と共同監督した『明日を創る人々』だろう。
これは「組合に作らされた映画で、自分の作品ではない」として黒澤が公開時以降は、上映を禁じていたので、長い間見られなかった。
私は、昨年フィルム・センターで見たが、多分黒澤が撮った部分が一番左翼的だった。
ラスト、組合嫌いだった父親薄田研二(本当は共産党のバリバリ)が、戦後初のメーデーに参加するシーンの次第に高揚していくカット・バックは、まさに黒澤流である。
だが、それは戦時中の戦意高揚映画『一番美しく』で、光学兵器工場の少女ら(黒澤と結婚する矢口陽子)が毎朝寮から工場に行進して行く場面の高揚感と同手法なのだ。
晩年の関川は、アル中だったそうで、霞ヶ関ビル建設の鹿島建設スポンサー映画『超高層のあけぼの』の時は、ほとんど現場の指揮ができず、スクリプターの中尾寿美子(今井正の名カメラマン中尾駿一郎の妹)がほとんど手はずを整えたのだそうだ。
それを見ていた東映の役員は「映画はスクリプターとカメラマンがいればできるんですね」との名台詞を吐いたそうである。
中尾女史は大変才能がある人らしく、鉄眼和尚を描いた映画『本日ただいま誕生』でも監督が全くできず、代わりに彼女が演出したのだそうだ。
スクリプターというのは、実は映画製作に大変重要な存在なのだ。