渋谷に新しくできた映画館シネマ・ヴェーラで、マキノ雅弘の東宝での『次郎長三国志』の5部と6部を見た。
5部の『殴りこみ甲州路』は、十年ぶりくらい、6部は初めてだった。
細かく見れば問題はあるが、マキノはやはり楽しくて面白い。役者では森繁が上手い。
次郎長一家で今生きているのは、森繁と小泉博だけだろう。
6部で、元相撲取でヤクザの千葉信夫が悪人なのが面白い。
この人は、今の「デブ・タレント」の元祖。
体がでかいだけで、たいていは間抜けな善人を演じていたが、悪役というのが意外で、しかも演技が上手いのには感心した。
5部の最後で豚松の加東大介は死んでしまう。
これは、同時に撮っていた黒澤明の『七人の侍』の撮影が長引き、本来なら終わっているはずの加東の出番が、また来てそっちにまわすため、急遽殺したのだそうだ。
マキノは「豚松殺した」という電報を打った。
こんなことができたのも、どちらもプロデューサーが本木壮二郎で同じだったからだろう。
本木は、全盛期の黒澤作品の制作をすべてやった人だが、金銭問題から黒澤、東宝を追われ、昭和40年代に高木丈夫等の変名でピンク映画を量産する。
毀誉褒貶が様々だったらしいが、最後は孤独に死んだようだ。
私も、大学生時代偶然に見た『濡れた素肌』というピンク映画が傑作で驚いたが、監督が本木だとずっと後に分かった。