フィルムセンターで、1933年、昭和8年に五所平之助が監督して、田中絹代が主演した松竹蒲田作品で最初の『伊豆の踊子』を見る。
すでに日本もトーキー時代に入っていたが、伊豆(実際は信州)の地方ロケーションがあり、当時は録音車を持っていくことも難しかったので、サイレントで作られた。
実際は、活弁と伴奏音楽が入ったのだろうが、フィルム・センターではすべて無音で上映されるので、あちこちで鼾の音が聞こえた。
なかなか上手くできている。
そして、田中絹代という女優は、清純派とされていたが、実は随分とおきゃんな女性だな、と思った。
実際に、清水宏監督との結婚生活では、喧嘩して畳の上におしっこをした、というのだから随分激情的な女性だった。
自分でも、吉永小百合と山口百恵と2本『伊豆の踊子』を監督した西河克己は、前に教えていた女子大で、6本の『伊豆の踊子』を見せたところ、この田中絹代版が一番評判が良かったそうだ。
それは、多分この田中絹代版のラストシーンのためだと思う。
相手役の一高生・大日向伝が、最後に下田港の岸壁で、田中絹代に「本当に聞いて欲しいことがある」と言う。
愛の告白と期待する彼女に、大日向が言ったのは、
「旅芸人をやめて旅館の息子の嫁になれ、そうすれば皆幸福になる」と言うのだ。
なんという女心を理解しない馬鹿者!
こうした場面は、実際よくあるわけで、女子大生は、きっとこのシーンを我が事のように思い、感動したのだろう。
五所平之助監督は、大変繊細な人で、女心をよく理解できる人だったようだ。
そこで、あのシーンになったのだろう。
「男と女のすれ違い」は、実はアングラ劇の唐十郎作品でも、その本質であり、ある意味近代劇の根本でもあると言える。
その意味では、この五所版は、結構現代的なものを持っているとも言えるのかもしれない。
映画『伊豆の踊子』は、田中絹代、鰐淵晴子、吉永小百合、内藤洋子、山口百恵と全部で5本見た。
残すのは、野村芳太郎監督の美空ひばり版のみだが、これはDVDも出ているので、その内見ることにしよう。
コメント
Unknown
「伊豆の踊子」が好きなのね。
ちなみに小生は友達と来週天城山に登山に行き、帰りに温泉に入っていっぱいやってきます。石川さゆりの「天城越え」もいいですね。
是非、ご報告を
天城行きのご報告を是非、ここに書き込んでください。
かわいい踊子に会えることを期待しています。
五所平之助監督は戦後何度もリメイクされる『伊豆の踊子』の雛形を仕立て上げました。
この映画での叙情性と哀感豊かな演出は清水宏監督と見まがうほどです
五所監督は戦前に松竹で小津安二郎と共に数多くの名作を生み出しながら、現在小津監督ほど評価されていないのは残念です。
『伊豆の踊子』は戦前戦後を通じて6回映画化されていますが、どれが最高作と言うことになれば、第一作目としか言いようがないでしょう。
「仁義なき戦いシリーズ」でどれが一番かと聞かれると、好みはあっても、やはり第一作目だと答えるしかないのと同じです。
田中絹代、美空ひばり、鰐淵晴子、吉永小百合、内藤洋子、山口百恵と全部で6本の内、初々しい日本的女性・薫のイメージに誰が最も近いかと言えば、吉永小百合では上品すぎるし、内藤洋子だと更にお屋敷育ちの令嬢ぽっくなってしまい、反対に美空ひばりだと俗物過ぎる。
ここは生来の気品さと旅芸人の下賤さを兼ね備えた山口百恵が最適だと思いますが。
大ミスキャストは鰐淵晴子、ハーフである彼女が和風美少女の「薫」にはどうしても見えません。
しかし、しかしですよ、ここからちゃんと読んでください。
この鰐淵ヒロインの違和感を補っても余るほど、川頭義郎監督の『伊豆の踊子』(鰐淵晴子・津川雅彦)が極上級、ピカイチだった。
伊豆の風景描写や旅一座たち(特に、桜むつ子は素晴らしい)の人間点描などで、一番優れていると思います。
学生の「私」はそれぞれ一長一短があって、これとは特定できませんが、原作者の川端康成の容貌に一番よく似ている石濱朗(どちらも鷲のような鋭角的な顔をしている)ではないでしょうか。
「さすらい」様はこの時点(2009年)で野村芳太郎監督版のみ見ていないと書かれていますが、多分ももうご覧になったのではないでしょうか。
第一作目は別にして、戦後版の中で「さすらい」様の一番お気に入り『伊豆の踊子』は何でしょうか。
野村監督の美空ひばり版も、悪くたかった。なにしろ、ひばりに歌わせていないのですから、すごいと思う。
個人的には、内藤洋子版が好きですが。
やはり、山口百恵版が最高だったと思います。
これは、役者の資質の問題ですから、どれが、いい悪いの問題ではないと思います。