『異聞猿飛佐助』

1965年の篠田正浩監督作品、松竹最後の映画である。
脚本は、劇作家の福田善之だが、これは彼が新劇、そして東映で『真田風雲録』をヒットさせていたからだろう。話は、『真田風雲録』より少し後の、大阪夏の陣の少し前の夏、信州諏訪。

昔から好きな作品だったが、久しぶりに見て、欠点が分かった。
一つは、脚本が福田という娯楽映画の専門家ではないので、人物がごたごたして、人間関係が分かりにくいこと。
さらに、主人公高橋幸二が、あまり頭が良いようには見えず、最後の一種の謎解きも納得できないことである。
福田としては、『真田風雲録』で、60年安保を描いたのを前進させて、1960年代中頃の錯綜した反体制勢力と権力の構図を描こうとしているが、あまり上手く行っていない。
諏訪城の重臣となっている宮口精二が、隠れキリシタンで、息子の岡田英次は一度徳川方に行ったが、その息子入川保則と共に、徳川から大阪に再度寝返る。
この宮口精二の感じは、日本共産党や構造改革派のことかと思った。
なかなか意味深い、また面白い作品で、その後篠田が『梟の城』を作り、見たが、これは『異聞猿飛佐助』のまねだと思った。
全体に、画面、リズム、音楽、踊りとうはとても素晴らしく、篠田の感覚的冴えが見られる作品の一つである。
最後、石原慎太郎が霧隠才蔵として来る。篠田も石原も「ファシズムはこう現れる」と一致しての演出だそうだ。
10年前の都知事選の時の「後出しジャンケン」を予言したのか。
映画『若い獣』で石原を演出した堀川弘通によれば、「以外にも慎太郎は、臆病で慎重な男」だそうだ。
併映の中村登監督、有馬稲子、高橋貞二主演の『危険旅行』は、どこも笑えないつまらない、二匹目のどじょう映画だった。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする