武満徹の音楽を一言で言えば、不安と恐怖になるだろう。
武満のみならず、シェーンベルクからアンバン・ベルク、ウェーベルン、戦後のカール・ハインツ・シュトックハウゼンら、現代音楽の作曲家に共通するのは、やはり不安と恐怖である。
それは、シェーンベルクらの20世紀初頭では、19世紀の貴族社会の欧州の秩序が壊れた革命と戦争の時代への不安であり、戦後世界では、核戦争による世界すべての滅亡の不安である。
だから、武満の音楽に一番合うのは、サスペンス映画である。
また、青春映画も、東宝の恩地の『めぐりあい』や『伊豆の踊子』、『めぐりあい』など、青春の不安と恐れは、彼の持つ抒情性によくあって、秀作になった。
今回、『最後の審判』を初めて見て、全くぴったりの素晴らしい音楽だった。
そして、武満も1990年代以降の晩年では、あまりすぐれた作品を残していないようだ。
その理由は、言うまでもなく1989年のベルリンの壁崩壊以後、社会主義体制の消失による冷戦の終結である。
晩年の作品には、不安や恐怖がなくなり、曖昧でドラマのないムード的な作品になっている。
すぐれた作品こそは、常に時代と深く関わるものだということの例の一つだと思う。