昭和30年の日活映画、自分の叔父夫婦、実のお爺さん夫婦を殺害して死刑を宣告された少年牧真介が拘置所に送られてくる。場所は、山梨の石和らしいが、まだ温泉は出ていないので、全くの田舎である。
当初は、言うことをきかず暴れる牧だが、担当の信欣三の親身の世話で次第に打ち解け、またなぜ殺害をしたのかが、分かってくる。
監督の吉村廉は、大映の戦前からの人で、回想に入るときは、波板ガラスでゆらゆらするなど、手法はひどく古いが、確実で真面目な作り方は良い。
母親の田中絹代は、石和の米屋に嫁入りしたが、夫が死んだため、叔父の多々良純が入って来て、田中は「旅館の女中上がりの女に家を取られるから」と家を追い出されてしまう。昔は、そういうことがあったのだ。
多々良は、ケチな男で、牧はもとより、お爺さん夫妻も邪険に扱う。
牧は、戦時中に次第に悪の道にも手を染めてしまう。
東京で菅井一郎と再婚した田中絹代だが、そこにもいられず、
牧は田舎に戻るとき、「このままではお爺さんも幸福ではない、死んだ方が幸福と」全員を殺害してしまう。
拘置所の人間たちが面白くて、殿山泰司、内海突破、増田順二らが描きわけられているのは、脚本構成が八木保太郎で、佐治乾、片岡薫ときちんとしているからだろう。
音楽は斉藤高順なので、松竹的にも見える。
信欣三の教えで、牧真介は死を受け入れるようになり、従容として死刑台に向かう。
そのとき、恩赦の電話が入る。
死刑から突然無期懲役に変えられた牧。
まさに、ドストエフスキーの『死の家の記録』的テーマである。原作の中山義秀には、そうしたテーマがあったのだろうか。
だが、牧は刑の変更に生きる意味を見出せず、新入り受刑者の安倍徹の示唆で、看守の拳銃を奪い、みんなで脱走しようとする。
そこからは、日活らしいアクション・シーンになる。
そこに、牧真介の前に現れる田中絹代。
「生きるんだよ、そしてお母さんのところに戻ってくるんだよ」
田中の胸に飛び込み泣き崩れる牧真介。
田中の、表情が素晴らしい。
主演の牧真介は、演技は悪くなく、ルックスも良かったが、
その後日活が、石原裕次郎・小林旭の時代になり、こういう真面目な連中は不要といなくなったようだ。