『幸福』

日本映画専門チャンネルの東京特集で放映されたので、録画しておいた。
1981年の公開時にも見ていて、かなり面白かったが、あまり記憶になかった。
と言うのは、併映の城戸真亜子主演の『アモーレの鐘』と言うのが、どうにもならない最低映画で、その記憶の方があまりにも強かった性だろう。

今回見ると、そのときには気がつかなかったが、監督の市川崑が、カラーなのに色彩を殺している技法「銀残し」に拘った意味がわかった。
銀残しは、カラー・フィルムの現像過程で特殊な処理をして派手な色を消してしまう方法で、市川崑監督作品の『おとうと』のとき、宮川一夫カメラマンが大映京都と言うよりも、京都の東洋現像所と共同して開発したものである。
このとき市川は、「大正時代の雰囲気を出したいので」と言っていたが、ここでもバブル以前の東京の色彩のない下町のくすんだ情景を大変上手に再現している。
「ああバブル以前の東京の町の色は、こんなものだったのだな」と思う。
その意味では、大変貴重な作品である。
そして、話は刑事もの、下町で起きた殺人事件だが、きわめてリアルに描くため、市川は極彩色の世界にはしたくなかったのだろう。大変リアルに事件と町、社会が描かれている。
中で、極貧家庭が出てくるが(木造アパートがすごい)、その母親が市原悦子で、例によって大芝居で、笑わせてくれる。まるで主演女優である。
市川崑作品でおなじみの女優、三条美紀や草笛光子、さらには金田一耕介シリーズのように「おあっ、分かった!」と言う加藤武も出ている。
主演の水谷豊も、同僚刑事で恋人の中原理恵が殺されてしまう永島敏行もまだ若い。

この映画は、原作がエド・マクベインで、権利関係で公開時以降は上映されず評価が低い作品だが、市川崑作品の中でも上の部類だと思う。

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コメント

  1. chokupon信州 より:

    ”駄作”であったのですか…。幸福の方の試写会の際、上映チラシを貰ったのですが、北アルプスを背に佇む城戸真亜子さんがとても綺麗に見え、16歳手前の私には、「あーあー、こんな綺麗なお姉さんと美ヶ原高原で出会えたら僕だってどんなに幸せか…」と思えたのも昨日のことの様です。中村武くんという真面目な友人が、「この間アモーレの鐘見て来たよ」と、学校の休憩時間に話してくれましたが、城戸真亜子さんのことを聴きたい自分が何やら恥ずかしく、「へー、そうなんだ。いいなー」と言ったままトイレへ行くフリをしたのも、なつかしい想い出です。指田さんの解説…、大変愉快でした…