『藤十郎の恋』

昭和13年、東宝で作られた大ヒット映画で、長谷川一夫と入江たか子の主演だが、長谷川一夫の名前では、最初の作品である。
松竹から東宝への長谷川の移籍の理由は、諸説あるが、待遇の他、映画で有名になった後、松竹の歌舞伎に出たとき、共演者から侮蔑されたこともあったそうだ。

菊池寛の原作で、初代坂田藤十郎が、近松門左衛門の新作『大経師昔暦』を上演するとき、おさんと茂平の心根がなかなか掴めない。近松の役は滝沢修。
そのとき、偶然宴席から抜け出て会った、以前から互いに憎からず思っていた芝居茶屋の女将お梶の入江たか子に恋を仕掛け、そのときの反応を見て、演出ができるというお話。
筋はよくできているが、なぜお梶は自殺してまうのか、はいまひとつよくわからない。
当時の歌舞伎をめぐる風俗や事情は大変上手く描かれている。

後に長谷川は、溝口健二の監督の名作『近松物語』で、この茂平を演じることになる。おさん役は、香川京子である。

山本嘉次郎の監督で、チーフ助監督は黒澤明。
黒澤は、山本の助監督から出て世界的大監督になるが、黒澤より山本の方が遥かに上回っているのが、音楽的センスである。
黒澤の音楽センスは、『八月の狂詩曲』の『野バラ』で分かるように小学校唱歌のレベルでにすぎない。
山本が、エノケンの映画で巧みに音楽を使用したのは有名だが、ここでは菅原明朗を使って近代フランス的な音楽にしている。
横浜市中央図書館AVコーナー

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