『花嫁のおのろけ』

別にどうということのない題名で、筋も独身の大学教授の高橋貞二の嫁選びの話、1958年なのでお見合いの連続。
冒頭に、大学生の石浜朗が瞳麗子と明治記念館で学生結婚する場面が出てくる。
これは、当時「太陽族」で有名人だった石原慎太郎が学生結婚で騒がれていたことを反映している。
見合いを手助けするのが、女性カメラマンの岡田茉利子で、なんとも大した映画ではないなと途中まで思う。
だが、岡田の姉はデザイナーの小林トシ子で、彼女は夫で船乗りの佐田啓二と離婚しようとしている。
そして、小林トシ子は、もともと高橋貞二と許嫁だったが、高橋が戦時中に出征し、戦死の報が来たので、急遽佐田と結婚したのだが、結局うまくいかなくなったことが分かる。

そして、高橋らの父親で従軍武官としてフランスにいたこともある日守新一によれば、
「死んだと思ったお前(高橋貞二)が戻ってきたのが悪いのだ」となる。
これはよく考えると、小津安二郎の名作『東京物語』を裏返ししたような筋だと見えてくる。
『東京物語』では、原節子の夫(笠智衆・東山千枝子夫妻の次男)は、戦争に行って戦死している。
だから、この野村芳太郎監督のお気楽映画は、「その次男が実は生きていて戻って来たらどうなるのか・・・」という設問のように見える。
この映画のように、ある男が戦死したとき、未亡人は、その家の弟などの男と結婚したことは日本では普通のことだった。
特に、農村では土地などの財産を他家に行かせないためとの意味も大きかったと思う。

ここでは、小林トシ子は、佐田啓二と離婚した後、元の許嫁の高橋貞二と結婚することになる。
ご丁寧に、二人が再会して結婚を誓うのは、銀座松坂屋の屋上なのだ。
小津の映画の中では、笠智衆・東山千枝子夫妻を原節子が東京の全体を見せるのは、銀座松坂屋の屋上である。

さて、佐田が乗っている船は、太洋漁業の捕鯨船で、横須賀から大々的に南氷洋に出ていく。
太洋漁業の捕鯨船の岸壁は横須賀にあったのだが、そこが自衛隊に提供されることになった。
そこで、横浜の大黒ふ頭の手前に捕鯨船用の大水深の岸壁を整備し、太洋漁業は移転することになった。
ところが、捕鯨船用のふ頭がで来た頃、商業捕鯨は世界的に中止になってしまい、捕鯨船用の岸壁は不要になった。
そこで、そこは太洋の関係企業の塩水港精糖のふ頭になった。「砂糖のふるさと」というドーム型の倉庫があったところである。
いろいろなことを考えさせられる映画だった。
衛星劇場

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする