わが国で、一般の人が「呼び屋」と言う名を最初に知った男・神彰の生涯をたどった本で、当初ネットに掲載されているときから、読んでいたが、やっと通読できた。
神は、世界を流浪する合唱団のドン・コザックをアメリカから招聘したのを皮切りに、ボリショイ・バレー、レニングラード・フィルなど、ソ連の芸術家を呼び、赤い呼び屋として名を挙げる。
さらに、女性小説家、才女の有吉佐和子と結婚する。
だが、その頃から彼の会社アート・フレンドは経営が不振となり、結局一児の有吉玉青を得るが、二人は離婚し、会社も倒産してしまう。
だが、その程度で地に落ちる男ではなく、彼は1970年代には居酒屋チェーン・北の家族のオーナーとして再起し、大成功を修める。
その成功の裏には、生地函館、さらに満州のハルピン以来のロシア語人脈があり、一癖も二癖もある個性があったことが明かされる。
後に、イベンターとして有名になる康芳夫も、神のところにいたのだった。
だが、呼び屋が、1964年の東京オリンピックを境に、次第に大手代理店等に握られていくように、居酒屋チェーンも最後は、大手企業に売り渡すことになる。
まことに大きなスケールの人間であり、虚業の名のふさわしい生き方で、彼は1998年5月死ぬ。
因みに、この「虚業成れり」と言うのは、スエズ運河掘削を企画し、当時のオランダ女王イザベルから助力の約束を得たとき、計画者レセップスが、友人に言った言葉だそうである。
岩波書店 2800円 2004年刊