今、携帯電話による入学試験のカンニングが話題となっているが、私も一度だけ大学の授業の試験でカンニングをしたことがある。
教育学部のフランス語の1年の最後の試験だった。
教室に行くと、いる生徒が皆机に向かって何か書いている。
「何よ」と知っている奴に聞くと
「カンニングだよ」と鉛筆で文章を書いていた。
早速、私も机にフランス語の文章を書いた。
そして、何とか「鬼の福井先生」の授業に合格した。
教育学部のフランス語の先生は二人いて、一人は『シュールレアリズム宣言』等の翻訳をしておられた稲田三吉先生で、このシュールレアリズムと三吉と言う名前と、失礼だが「ひよっとこ」のようなお顔の落差に笑ってしまう方で、大変やさしい先生だった。
それに対して、鬼の福井と怖いので有名だったのが、美人のフランス女性と結婚しているという福井先生で、この人は毎回授業でどんどん生徒を当てて文章を解釈させる方だった。
そして、夏休みの宿題に「フランス語の小説を3本読んで、その感想を書け」というのがあり、私は『危険な関係』『クレーブの奥方』『ドルジェル伯の舞踏会』を取り上げその感想を書いて出した。
すると「tres bien!」で、「できるじゃないか」と大変誉められた。
普段は全く勉強してこない生徒だったので、驚かれたようだ。
今考えると、自分が書いたもので最初に誉められ、批評されたときだったと言うことになる。
たぶん、フランスの恋愛小説は、物語と言うよりも、若い子女への恋愛の教科書的な役割を持っていて、その究極は恋愛において嫉妬をしなくなることだ、といったようなことを偉そうに書いたと思う。
福井先生も、カンニングのことは十分ご存知だったのではないだろうか。
「試験は難しいが、カンニングはして良い」という噂があったと思うのだから、先生も承知されておられたのではないかと思うのだ。