『夜叉』

降旗康男の監督作品を最初に見たのは、長崎を舞台にした高倉健のヤクザ映画『地獄の掟に明日はない』で、これは八木正生の音楽がマイルスの『アランフェス協奏曲』のコピーなのを除けば、かなり評価できるものだった。
その後、安藤昇のヤクザ映画など、つまらないものになり、「新網走番外地」シリーズもそれほどではなく、倉本聡脚本の『冬の華』も、カッコだけで、感心できなかった。
『駅・ステーション』、さらに『鉄道屋』に至っては、ほとんどお笑いのように見えたので、この1985年の『夜叉』も見ていなかった。
だが、今回見てみると、トゥーツ・シルツマンの音楽が気障だが、中村務の脚本はテンポが良く余計な思い入れがなくて快調である。

高倉健をめぐる、妻いしだあゆみと水商売女田中裕子の対決で、ビート・たけしが、田中のヒモで、シャブ中毒の男を演じる。
田中裕子は、好きな女優ではないが、その演技は、いつも自分の間で台詞を押し通してしまうのは、ある意味すごい。
この田中裕子のテンポに結局相手役は皆合わせられてしまっている。

その点、いしだあゆみの方がはるかに自然で柔軟であり、高倉健をはじめ相手の演技に合わせて演技している。

最後、小林稔侍に、たけしが殺されてしまう場所は、「千日前劇場跡」と言い、廃墟のような劇場跡がでてくるが、ここは本当にかつての千日前デパートの跡地なのか、それともセットなのだろうか。
そこは、大阪の南で、大キャバレーがあり、劇場になったり、デパートになり、1972年に大火事になったところだと思うが。
日本映画専門チャンネル

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