『おんなの渦と淵と流れ』

新宿で『阿片戦争』を見たあと、夜のイベントまで時間があったので、シネマヴェーラで、『おんなの渦と淵と流れ』を見る。

中平康には、また裏切られるのかと思うと、これは大傑作だった。

1964年で、『猟人日記』『砂の上の植物園』などの文芸エロ路線の作品。

『砂の上の植物園』は、原作も読み、蒲田のパレス座で見たこともあるが、この文芸エロ路線最終作は見ていなかった。

主人公は、英文学者でシェークスピアの翻訳をライフワークにしている中谷昇と妻の稲野和子の話。

満州の専門学校の教師だった中谷は、見合いで稲野と結婚する。

当初は貞淑で大人しい妻だと思っていたが、敗戦の中で稲野は、俄然女としての活力を発揮し、元満鉄の小池朝雄らを手玉にとって新京で闇料理屋を、上手くやって生活を支える。

引き上げてきた金沢でも、実家の屋敷を利用して料亭を開き、役人や実業家の利用で成功する。

実際に金沢の広大な屋敷を使用しているようで、この美術、撮影がすごい。

ここでも、稲野は男を利用しているが、それを中谷は家の押し入れに隠れ、稲野と北村和夫の情事を覗き見る。

公開当時も、このシーンのみが宣伝されたが、それほど扇情的ではなく、ごくあっさりしたもの。

中谷はこの生活に耐えられず家屋敷を売って二人は東京に出て、中谷は出版社に勤務し、稲野は叔父の家にいることになる。

だが、実はこの家で稲野は、女学生時代に叔父で中国文学者の巌金四郎に犯されていたのである。

この巖は、謹厳実直な学者に見えるが、実は大変なオヤジで、隣の家の奥さんの沢村貞子とも関係があり、今は北海道に引きこもっている巌の帰京を沢村は心待ちにしている有様。

最後、稲野和子は、隣家の息子で医学生の川治民夫から買った青酸カリで自殺してしまう。

「とてもよく出来たシナリオだな」と思うと、名脚本家の成沢昌茂で、原作は榛葉英治。

中平には珍しい女の一生を描いたメロドラマで、意外にも彼の資質にあったもののように思えた。

川島雄三の傑作『花影』を思わせる傑作だったが、よく考えると中平も、川島も松竹大船出の監督で、こういう女性のメロドラマは得意なのだと思った。

シネマヴェーラ

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