中国が1997年に作った『阿片戦争』、香港の資本も入っているようだが、これは1997年の香港の返還を記念して製作された大作。
監督は、『芙蓉鎮』『乳泉村』等で日本でも知られた謝晉。
アヘン戦争については、詳しい知識は持っていないが、全体として正しく公平な描き方で、その分ドンパチ度は薄い。
清朝末期の道光帝の時代、この道光帝が、舞踏の麿赤児そっくりでおかしい。
アヘンの中国での蔓延対策を臣下の連中に求めると、厳禁を献策した林則徐の案が採用されて、彼は広州に派遣されてアヘンの取締に当たることになる。
林則徐の役者は堂々たる体躯だが、日本が戦時中に作ったマキノ雅弘の反英映画の『阿片戦争』でも、林則徐役は二世の市川猿之助である。
東洋的な信頼される指導者像は、堂々たる体なのだろう。
それは、『忠臣蔵』の大石義雄、映画『七人の侍』の志村喬の勘兵衛でも同じである。
卑劣なイギリスの巧みな挑発で戦争になるが、イギリス議会では反対論もあったこともきちんと描いている。
それにしても、ビクトリア女王の浮世の離れぶりはすごい。
戦争は、イギリスの一方的な勝利に終わり、まず香港島の割譲になる。
中国の大砲は射程距離が短く、イギリス艦隊がアウトレンジ戦法に出られると戦いようがなかった。
それは、戦時中の日本の高射砲がアメリカのB29に届かなかったのとまったく同じ。
戦争が始まるまで、上は道光帝から臣下の林則徐に至るまで、中国がイギリスに負けるとは思っていなかった。
世界一の大国の中国が、ゴミのように小さなイギリスに負けるはずはないと思い込んでいたのである。
ここでも、兵士は死ぬとわかっていても、突撃して行くのは、日本のバンザイ突撃と同じ。
それは、つい最近の湾岸戦争でのイラク兵士にも見られたのは、アジア的な特質なのだろうか。
和平交渉でのやり取りも非常に面白い。
中国が賠償するのではなく、イギリスに恩恵として金を与えるというのだ。
この尊大さはすごいが、現在の日本との「領土問題」でもこうした意識を十分に考慮しないと話は進まないだろう。
K’Sシネマ