1951年、松竹の鶴田浩二と岸恵子のコンビ映画、監督は大曽根辰夫、脚本は黒澤明で、『羅生門』と『生きる』の間で、『白痴』とほぼ同じ時期。
湖に面したホテル・臨湖亭にある夜、鶴田がやって来るが、その途中で花売りの婆さんをひき逃げしていた。
ホテルの支配人志村喬は、鶴田の昔の仲間だったがヤクザから足を洗い15年間まともに生きてきた。
鶴田は、親分の命令で港で強盗事件を起こして逃げて来たのである。
志村喬の孫娘の岸恵子は、何も知らずにホテルで働いているが、すぐに鶴田に目をつけられる。
この映画は、一応鶴田と岸が主役のように見せているが、本当は志村喬が話の主役である。
ホテルには、鶴田の強盗の片割れで子分の情婦小林トシ子も来るが、翌日に湖で自殺してしまう。
さらに、ヤクザ仲間の有島一郎が、志村喬の口封じに来て、小林の自殺に疑惑の念を抱いた本庁の刑事の清水将夫もやって来る。
この時期の有島一郎は、後の喜劇的な善人ではなく、悪人役が多いが、なかなか凄みがある。
岸恵子が、鶴田を花売りの婆さんの小屋に逃がしたりなど、いろいろあるが、最後志村は鶴田を湖上で殺し自分は、田舎駐在の藤原釜足に自首する。
黒澤明が脚本を書き、谷口千吉監督の『銀嶺の果て』に似た筋だが、ここでも過去の罪を悔いて贖罪に向かう男がテーマになっている。
『静かなる決闘』以後、この時期の黒澤明には、強い贖罪意識があったことを現す1本である。
鶴田浩二と岸恵子の初共演作品で、岸恵子としては映画2作目で、後にこの二人はこの作品のように結ばれることになる。
小屋にいる婆さんは、誰かと思うと、松竹京都なので、京都くるみ座の名女優の毛利菊江だった。
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