人生絵巻的映画

こんな言葉があるわけではない。

私が勝手に作った言葉、ある種の映画のジャンルである。

1950年代から、1970年代頃まで、邦画の作品の中で、「人生絵巻」とでも言うべき種類の映画が多く作られていた。

監督の溝口健二は、『雨月物語』の頃、「絵巻物のような映画が作りたいね」と言っていたそうだ。

実際に、彼の戦後の作品『西鶴一代女』『山椒大夫』等は、そうした絵巻物的な作風である。

まるで、天井から人の人生を覗いているような面白さがあり、こうした感じは、溝口のみならず、豊田四郎、渋谷実、川島雄三らにもある。

豊田四郎の『甘い汗』、渋谷実の『もず』、川島雄三の『花影』などであり、主に水商売の女性を主人公とした作品群である。

先日、フィルムセンターで上映された清水宏の『踊子』もこうした人生絵巻映画だと思う。

さらに神代辰巳の監督デビュー作『かぶりつき人生』も、関西のストリッパーを描いた人生絵巻的作品だったと思う。

ただ、それは非常に技巧を凝らしているので、ややわかりにくいが、趣旨は彼女の人生をじっと見つめる映画だったと思う。

そして、こうしたジャンルの作品の淵源は、井原西鶴であり、監督豊田四郎の趣味は、井原西鶴の研究にあったことが、カメラマン岡崎宏三の本にある。

脚本家新藤兼人によれば、こうした人生絵巻作品は、ドラマ性や起伏がないので、平板になりやすく、映画として面白くするのは結構難しいのだそうだ。

個々のシーンでの役者の演技の上手さ、面白さが重要で、その意味で豊田四郎、渋谷実、川島雄三らは、名優の芝居にこだわっているのは、その性だろう。

文芸映画というジャンルがほとんどなくなった今日、人生絵巻的映画もなくなったことは誠に残念なことである。

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