世の中に隠れ芦川いづみファンは非常に多く、私もその一人である。
芦川いづみをたぶん意識して最初に見たのは映画ではなくテレビドラマ、TBSの名作『陽の当たる坂道』で、主人公の女子大学生役だった。
これは、演出が今野勉や村木良彦など、後にテレビマン・ユニオンになる連中で、ハイキ―な映像、さらに三宅榛名の音楽も素晴らしかった。
映画で石原裕次郎が演じた役は俳優座の新克利で役者が不足だったが、敵役の兄は横内正、その他小川知子や山田太郎、さらに福田善之らも出ていた。
このドラマは1965年秋の日韓条約反対闘争をバックにするなど意欲的な番組だった。
その後、大学1年の時、石原裕次郎と由美かおるの『夜のバラを消せ』という舛田利雄監督のアクション・ドラマを見て、一遍に芦川いづみファンになってしまった。
これは、007をモデルにしたというアクション映画で、裕次郎の育ての親が東野英治郎で、実は悪の親玉なのだが、それに囲われている美女が芦川で、最後に彼女は裕次郎を救うため、東野を殺し相討ちになって死ぬ。
「これで私も人間として死んでいける」
泣けましたね、だが早稲田の映画研究会の連中には、これを話すと多いいに笑われましたが。
さて、渋谷のシネマ・ヴェーラの蔵原惟善特集で、12月18日の今日は、芦川いづみ2本立てだった。
まずは、アイ・ジョージのヒット曲の映画化『ガラスのジョニー・野獣のように見えて』
東映にもあり、『太陽の子・アイ・ジョージ』で、見たことはないが、これは俊藤浩治の初プロデュース作品でもあるので、是非見たいと思っているのだが。
北海道の稚内から、貧困ゆえに人買い男アイ・ジョージに売られた芦川は、途中で逃げ出し、函館で競輪の予想屋宍戸錠と出会う。
宍戸は、腕の良い板前だったが、競輪選手の平田大三郎に入れあげて身を持ち崩し、いつも金に困っている。
木造の函館競輪場、魚市場、旅館街など間宮義雄の映像が非常に美しい。
アイ・ジョージが追いかけて来て、宍戸との闘争、宍戸に惚れている女南田洋子らとのドラマは少々混乱して、だれル。
だが、アイ・ジョージがギターを弾いていて、彼を捨てて逃げた女桂木洋子と小樽のバーで再会する場面も大変に美しい。
道の真ん中にドブが流れて夜空に光る、小樽の飲み屋街のセットも、木村威夫美術の傑作。
桂木洋子は、この場面が結局彼女の最後の映画出演になるが、やはり可愛い。
最後は、芦川が故郷の村の海に行き、彼女に引き寄せられるように宍戸とアイ・ジョージの二人の男も海岸にくるが、もう芦川は海に消えた後だった。
よく見ると論理的ではないところもあるが、芦川の可愛さ、健気さ、そして撮影の間宮義雄の画面の美しさ、さらに黛敏郎の音楽に涙しない者がいたら、そいつは人間じゃない。
『憎いあンちくしょう』は、ラジオの『今日の三行広告から』等の番組の人気タレントの北大作が、芦川いづみが出した広告
「ヒューマニズムを理解する運転手を求む」に応じて、熊本の奥までジープを持って行く話である。
この北大作は、永六輔がモデルで、彼がやっているラジオ番組の『今日の三行広告から』は、ラジオ関東の伝説の番組『昨日のつづき』である。
マネージャー兼恋人が浅丘るり子で、この二人のコンビが素晴らしい。
多分日本初のロード・ムビーであり、裕次郎は自宅に戻ってジープに乗るところから、
ルリ子は、大阪で裕次郎を行かせないことに失敗して、自分もジャガーで裕次郎を追うようになってから、二人ともラフでカジュアルな服装になる。
これも日本映画史上初めてのことだと思う。
最後、熊本の山奥で、芦川いづみと小池朝雄の恋人たちに向かい、
「愛は言葉じゃない」と宣言して、浅丘るり子と草原で抱き合う。
日本で最初で唯一の実存主義的映画の傑作だと思う。
この裕次郎・るり子の恋人を引き立たせるのは、実は「愛は信じることですわ」と平然と言ってのける芦川いづみの存在が光るのである。
シネマ・ヴェーラ渋谷