フィルムセンターで、大映版の『滝の白糸』を見る。
溝口健二の名作ではなく、1956年の島耕二監督、若尾文子、菅原謙二主演のカラー作品である。
最後、水芸人の白糸の送金によって長年勉強して無事高文試験に合格し、検事として金沢に赴任した菅原によって、殺人を自白した白糸に、村越欣哉は、殺人罪により「懲役8年」を求刑する。
だが、判決は無罪、晴れて二人は、幸福そうに刑務所から出て去ってゆく。
「ええ、これ溝口版と違うじゃないの」と思う。
溝口健二のや、昔劇団新派の公演で見たのでは、欣哉も、白糸も自殺してしまったはずなのだから。
そうした「愛の悲劇」だった。
戦後の民主社会では、恋愛は悲劇ではなく、幸福に祝福されるべきものになっていたということだろうか。
明治時代の芸人や車夫馬丁、縁日、華族社会などの風俗描写が細かくて面白かった。