私の知り合いで、この映画の原作者の野上照代を大変に嫌いな人がいる。普通の元公務員で、彼女になにも関係はないが、「話し方が偉そうで嫌だ」というのだ。
確かにそうしたところはあるだろうが、それは彼女の責任ではなく、野上女史を偉くしてしまった周辺の問題である。
今や、彼女は「世界の巨匠」の側近の数少ない生き残りでは仕方はないが。
私も、そうしたこともあり、公開時も見ず、昨年録画しても見ないでいたが、見てみると結構面白い。
事実と違うところもあるようだが、エピソードが豊富で飽きずに見ていられる。
良いのは、主人公の母べえの吉永小百合と坂東三津五郎夫妻にとって一見敵のように見えた人たちが、生き生きとしていて興味いところである。
笑福亭鶴瓶が演じる、奈良から来たという得体の知れない叔父さんが典型で、照美の姉初子の体の変化を嫌らしく言ったりする。
だが、街頭の愛国婦人会の贅沢品反対、貴金属供出運動には敢然と反抗し、「贅沢の何が悪い!」と言い放つのである。
また、故郷の父親は、元警察署長で三津五郎が投獄されると「最初から結婚に反対だった」と言い、太平洋戦争開始後も、転向しないと知ると上京してくる。
四谷の旅館で、母べえと孫たちにすき焼きをご馳走しようとする。
そのとき、照美が卵を割って机に落としてしまうと「もったいない」と言って口で吸って飲んでしまう。
これは誰かと思うと、先日亡くなられた中村梅之助で、彼が連れてきた下品な女は、再婚相手の左時枝で久しぶりだが、適役だった。
何かと母べえに便宜を図る、でんでんの隣組会長、三津五郎が投獄されると留守宅に足しげく通ってきて世話をする、三津五郎の教え子の浅野忠信、
みなすべて吉永小百合が密かに好きだからやっていて、またそれを知っていて利用する美人の狡さ。
この辺は、吉永小百合の面目躍如だが、私はやはり彼女では少し年を取りすぎていると思う。
吉永の姪で、美術をやっていて浅野が好きだが、戦争中に故郷に帰る檀れいから、浅野の真意を言い当てられた時の吉永の困惑。
それは悪くないが、この役が若い檀れいだったら、もっとリアリティがあると思うのだ。もちろん、吉永が売りの映画だが、壇れいの主役の方が良かったと思う。
鈴木瑞穂の偉い先生と衝突しせっかく出たカステラが、梅之助と喧嘩して席を立ち、スキヤキが食べられなかっとき、輝美が口に出す
「カステラ・・・」「スキヤキ・・・」が笑えるが、母べえは、幼い照美にとって、自分の意地のために子供に好きなものを与えない、良くない母親である。
現在に近い時代になると、照美は中学校で美術を教えている戸田恵子で、初子は医者の倍賞千恵子になっている。
二人に看取られて母べえは、父べえのところに行く。
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