先週、12月15日のイベントの打ち合わせのため、神奈川新聞の服部さんのところに行ったとき、岸恵子と何度かお会いになったことのある服部さんは、
「岸さんは『君の名は』を自分の代表作品のように言われるのが非常に嫌だ」といっておられたと言われた。
日曜日、風邪気味だったので、午後外に出ず、全部をあらためて見た。
第一部は素晴らしいが、北海道篇の二部、九州編の三部になると非常につまらなくなっている。それでも、すべて3億円以上の売上があったのだから凄い大ヒットだったのだ。
だが、そこでの岸恵子の氏家真知子は、およそ無意志で、思慮のない女性で、行動力がまったくない。戦後の女性ではなく、戦前の封建的な家や周囲の力に忍従する人間で、それで不幸になってしまう女性なのだ。
結局、日本を出てフランス人のイブ・シャンピという外国人と結婚するという、当時では破天荒な行動力のある女性だった岸恵子の意に沿わぬものだったことはよく理解できる。
「なんて馬鹿な女だろう」と思っていたに違いない。
ただ、この作品の男女の表情の現わし方の上手さは、大変なもので、ある意味で成瀬己喜男映画の表現に非常に良く似ている。
監督の大庭秀雄と成瀬己喜男に直接の師弟関係はないが、そうした心理表現の上手さは松竹映画の伝統だったのだと思う。
そして、恐らく岸恵子が演じて満足した女性像と言えば、今井正の『ここに泉あり』の岡田英治と結ばれて音楽運動に献身する女性だと思う。
『ここに泉あり』は、異常なクラシック礼賛を除けば、非常に良い映画だと思う。
その理由は、戦後の文化運動のだめな部分を良く描いているからであり、今井正はやはり凄いと思う。