『あるマラソンランナーの記録』

フィルム・センターの黒木和雄特集、前にトヨタのアメリカ向け宣伝映画『日本10ドル旅行』と東レのPR映画『太陽の糸』が上映されたが、黒木にしては普通の記録映画で、少々拍子抜けする。

『あるマラソンランナーの記録』は、マラソン選手君原健二が東京オリンピックに向け、もくもくと練習していく姿を記録したもの。
腰痛の頻発の中で、練習に励む君原の心情が克明に記録され劇映画のようなドラマにどきどきする。
大映映画での『陸軍中野学校』や『白い巨塔』の重厚な響きが特徴の、池野成の音楽が、ここでも不安感を高め、作品に重厚さを与えている。

そこまで描かれてはいないが、君原は目標の東京オリンピックで入賞はしたが、メダルは取れなかった。
だが4年後のメキシコ五輪では見事に銀メダルを取る。

冒頭、東京オリンピックの前年1963年に開催された東京国際スポーツ大会が出る。
君原の他、女子110メートル・ハードルの依田郁子。
東京五輪では期待されながら、全く駄目だった選手の悲劇的な結末を思い出し、思わず涙が出た。

君原は、八幡製鉄(新日鉄)の所属だったので、練習のバックとして沿道の九州の町が出てくる。まだ、未舗装の道が多く、マツダだろうオート三輪トラックが活躍している。

ともかく君原は、練習しないと満足、不安になる選手のようで腰痛を押しても練習に励む。所謂「根性」の選手である。
その姿は、まさに1960年代の歯を食いしばって経済成長に邁進した日本人総ての姿でもある。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする