タイトルが隅田川を遡上する映像にベートーベンの『運命』が流れて、「これは何だ」と思うと、工場の中で鶴田浩二が楽団を指揮している。
団員は、工場の労働者で、鶴田は「勤労者に音楽を与えようと、勤労者によるオーケストラ作り」を目指しているのだ。
これは、原作があるようだが、この鶴田の姿には、芥川也寸志がヒントになっているように思う。戦後、彼はアマチュア交響楽団を指導し、その新交響楽団は今も立派な活動をしている。
団員には、バイオリンの若尾文子がいて、彼女は本来は見明凡太郎が社長の工場の総務課員だが、社長の好意で楽団の仕事を担当している。
その工場には室内楽のカルテットもあり、チェロは川口浩(杉田康も見える)で、彼は優秀な奏者で、鶴田はオーケストラに引き抜きたいが、なぜか彼は強く拒む。
その理由は、川口の父親は音楽家で、鶴田との留学の争いに負けて挫折したのだという。
この作品は、言うまでもなく今井正の『ここに泉あり』の二匹目のドジョウを狙ったものだが、結構よく出来ている。
監督は島耕二で、日本最高のミュージカル映画と言われた映画『アスファルト・ガール』も彼の監督で、「こんな爺さんが・・」と思ったものだ。
だが、彼は音楽の素養があり、戦前には「日活・アクターズ・バンド」のサックス奏者として活躍し、今ではバンドのCDも復刻されている。
鶴田は、野外音楽堂で人々に音楽を聞かせたいと考えるが、楽団は練習場所も工場の操業の忙しさで追われ、金繰りも窮迫してラジオ局でアルバイトをしている時、昔の楽団の連中に見つけられて、東都交響楽団の指揮者に迎えられてしまう。
この楽団の練習場が傑作で、ベートーベン等の胸像が飾られていて、まるで昔の中学校の音楽室である。
最後、東都交響楽団のご厚意で、野外音楽堂で合同公演が行われてエンドマーク。交通事故で死んだ若尾文子の席にはバイオリンに喪章が飾られている。
原作は「川を渡った交響楽」というのだから、笑える。隅田川の東は、「文化はつる所」だったのだ。
内容は今から見れば、ほとんどお笑いだが、隅田川沿いの工場の映像は非常に貴重だと言えるだろう。
衛星劇場