『花の咲く家』は着物ショーだった。

インドネシアのバリ島に学会で行った医師・佐田啓二は、商社マン渡辺文雄の妻・岡田茉莉子

佐田と岡田の恋、不倫に、佐田たちの叔父で富豪の笠智衆の財産をめぐる小坂一也らの親戚の話が絡む。
渡辺文雄が型どおりの出世主義の典型的な悪役で笑わせる。小坂は軽薄な若者でコメディー・リリーフ。他に、岩下の友人で富士真奈美、岡田の友人で環三千代など。
佐田と京都で結ばれた岡田は離婚を望むが、渡辺は承知しない。
いつか二人が結ばれることを暗示して終わる。
岡田が登場の度に、違う豪華な着物、洋服で出てくる。
一種の着物ショー。

1963年の制作で、バリ島が舞台になのは、恐らく日本映画でも最も早いものだろう。勿論、多くの遺跡やケチャも出てくる。音楽の牧野由多可は、ガムランもきちんと使用。

佐田は保土ヶ谷の国立横浜病院の医師という設定なので、横浜の風景が出てくる。岡田と佐田が最初に抱き合う海が見える高台は、多分本牧だろう。
下はまだ海で、今は日石の製油所になっているあたりは埋立て以前。遠く杉田周辺の埋立が見える。

題名の「花の咲く家」とは、笠が住んでいる旧家の敷地の桜の古木のこと。最後は、そこも工場に売却され、桜の花見もその年限りになる。

またしても原作は大仏次郎だが、ここでも戦後社会と人間への反発が根底に流れている。
だが笠が、軽薄青年小坂に敷地の利用を委ねて工場に売却するように、一定の妥協を見ている。もはや、戦後的な流れは動かしがたいと諦めたのだろうか。

監督の番匠義彰は、つまらない歌謡映画が多く、低級な監督と思っていたが、ここでは重厚に撮っている。
カメラが松竹の名カメラマン生方敏夫。この人は軟調の画面で有名だが、ここではやや「絵葉書的」だが、大変美しい画面を作っている。
全体にレベルとしては、なかなか高い作品だった。

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