『浪華悲歌』は何回か見ていたが、これは見ていなかった。すごさに驚く。
話は、祇園の芸者姉妹の山田五十鈴と梅村容子が、共に金と男に傷つくというもの。
じっと見つめている監督溝口健二の目がすごい。
日活製作部長から第一映画社長になった永田雅一は、溝口の名作を残して会社を解散し、松竹の傍系会社新興キネマの所長になる。
映画の中の男女は全員が失敗するが、永田ラッパだけは、新興キネマから、戦時体制下で大映を作り自ら経営者になるなど、順調に出世街道を昇ってゆく。
冒頭、破産した大家の財産売立ての場の横移動での描写から、全編「金と色」の話。
詰まるところ、すべてのドラマは「色と金」で、これは近松門左絵衛門から成瀬巳喜男までそうなのだが、ここでは徹底している。ここまで身も蓋もない筋も珍しい。
昭和11年の作品だが、つい十数年前のバブル時代の話と言っても充分通用する。
いつもの溝口映画の進藤英太郎の他、昔のテレビでは中年役だった深見泰三がひどく若い。
姉の元旦那で、破産した男が志賀廼屋弁慶。
実に情けない軽薄な男を演じている。芸名から見て、多分曾我廼家劇だろうが、本当に浪花の遊び人の風情がある。豊田四郎の『夫婦善哉』の淡島千景の父の田村楽太もそうだが、この感じは関東の人間には演じられない。
タイトルとエンドマークには、ジャズ・バンドの曲が付いている。誰の演奏か、大いに興味があるところ。
衛星放送
コメント
「祇園の姉妹」「山椒大夫」
●祇園の姉妹 ★★★★★
【NHKBS】没後50年 溝口健二特集
祇園東を舞台に厳しい花柳界で生きる姉妹を描く。山田五十鈴演じる妹・おもちゃにコロリと騙される男たちの醜態が可笑しい。でも溝口が描く女たちはどれも辛い人生を背負っていて悲しい。
●山椒大 …
「金と色」でしたねー
こんにちは、TBさせて下さい。『浪華悲歌』御覧になっているんですね。羨ましいです。すごく観たい作品の一つです。
「金と色」…これはどの世界でも共通のテーマなんでしょうが、容赦無い描き方は関西特有のノリもあったのでしょうか…。でもしみったれた感じがなく、サバサバしたラストは力強くて好きです。この作品にジャズとは…あまり記憶に残ってなかったんですが、意外な組み合わせですねー。また見直してみなくては…。
姉
彼女は、妻子のあるお客の男を好きになりました.この男、女遊びに明け暮れてお店を潰したどうしようも無い男で、妹が言うようにこんな男にいくら尽くしても、無駄です.
妹
この子、独身の反物屋の丁稚を騙して反物を手に入れたり、姉を騙して、姉に惚れてる男の手引きをしたり.姉はそんなことじゃいけないと怒ったが.....
では、ちょっと見方を変えてみましょう.....
もし姉が、独身の反物屋の丁稚を好きになっていたのなら.
反物屋の主人は『相手が良い女なら、俺が仲を取り持って一緒にしてやる』と言いました.姉は良い子なので、一緒になることが出来たのです.
さて、妹は.....
この子の相手は、店を潰した道楽者ではなく、姉に惚れていた骨董品屋.
この男、客に『絶対にばれない贋作』を売りつけようとしていた.そこへ妹がやってきて、『そうだ、昨日、手切れ金に100円渡したっけ』と思いだし、贋作の値段を100円つり上げた.えげつない商売をする男だった.
でも、『別れさせるにはお金が要る』と言ったら、『そりゃそうだ』と、彼はすぐにお金を出した.
つまり彼は、商売ではえげつないが、私生活では話が分かる人間だった.
妹は.....
彼女は、商売の席、お酒の席でお客を騙したのではなく、私生活、個人同士の付き合いで、反物屋の丁稚を騙したのです.
この子は、商売でも、私生活でもえげつない人間で、これではどの様な相手であっても、幸せになることは出来ません.
優しい心の姉は、よい相手に巡り合えば幸せになれたはず.けれども冷たい心の妹は、どんな相手に巡り合っても幸せにはなれない.
原作、脚本、監督、全て溝口健二
単純明瞭、見事な作品です.