1976年に今井正が、秋吉久美子、草刈正雄主演で東宝で作ったものである。
戦前にPCLが木村壮十二監督、丸山定夫、竹久千恵子主演で映画化したのが最初で(見ていないが)、戦後には大映で成瀬巳喜男監督、森雅之、京マチ子主演でも作られている。
元は、室生犀星の小説を新派で劇化したもの。
この今井、秋吉版だが、なかなかの傑作である。
特に秋吉久美子が最高の演技である。彼女は、この頃が最高だったと思う。
「ここまで出来るのか」と、いつ見ても驚嘆する。
秋吉について、今井正監督は「デコちゃん(高峰秀子)の再来だ」と言っているが、間違いではないほどのできであった。
それに草刈もいい。
彼は、この時期東宝の青春スターで、岡本喜八の『青葉繁れる』(これも秋吉久美子との共演だった)も良い。
今井正は、『また逢う日まで』『ひめゆりの塔』など、進歩的・反戦的映画ばかりが取り上げられるが、私はこの作品や『にごりえ』、『夜の鼓』など、余り進歩的ではない作品が最高という考えである。
あるいは、『ここに泉あり』も、群馬交響楽団の文化運動を描いた部分よりも、そこにいる駄目な人間たちの描写の方がすごいと思う。
今井は、今や余り評価されない監督のようだが、黒沢、小津、溝口らと並ぶ大監督であることは、間違いない。
衛星テレビ