矢向駅が出てくる映画は

今朝の東京新聞に南武線が90周年であることが出ていたが、南武線矢向駅がはっきりと出ている作品がある。

成瀬巳喜男の名作『めし』である。

原節子と上原謙の、やや倦怠期の夫婦の話で、原の姪の島崎雪子が、夫妻が住む大阪に来て、二人の仲をかき回し、結婚を再考しようと原節子は東京の実家に戻ってくる。台詞では東京と言っているが、明らかに南武線の矢向駅であり、駅の看板が映っている。

原の母親は杉村春子で、原の妹の杉葉子は、夫の小林桂樹と共に洋品店をやっている。

矢向は私の母の実家なので、この辺の感じはよく憶えているが、相当に鄙びた町だった。

矢向は、横浜市と川崎市の境界の町で、当時川崎市は競輪事業をやっていて、また工業都市として発展していて財政状況が良かったのか、境界付近の道路の川崎側は舗装されていたが、横浜側は未舗装だったことをよく憶えている。

この『めし』では、原節子は、上原と別れるため川崎の職安に行き、職探しをしようとして女学校時代の友人の中北千枝子に会う。

そこでは成瀬作品のお定まりのチンドン屋が出てくる。中北は言う、

「あの二人は夫婦よ、だって歩調が合っているもの・・・」

また、中北が多摩川近くの駅の近くのスタンドで新聞を売っているのは、登戸駅付近の南武線と小田急線が交差しているところだと思う。

成瀬作品は、地理的関係も非常にきちんと使っているのである。

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