川崎市民ミュージアムで森園忠監督の『この青春』を見る。
『若者たち』の大ヒットで儲けた新星映画社が作った1971年の作品。
話は、横浜で通船の船長をしている大出俊が、外国船員からベトナムの密航人を預かることから始まるベトナムと日本の友好話。
父親が日本人で、その遺骨を葬りに来たのだが、出身地に行くと戦時中の脱走兵ということで、住職の三津田健に怪しまれ、逮捕されてしまう。
その他、主人公の電気会社の女工が藤田弓子、その父が今福正雄、母は荒木道子、弟が村野武範。
近所の変な親父が下川辰平、今福の会社の組合員に小林勝也など、文学座の役者が多数出ている。
主人公の家が相当なぼろ長屋で、川崎の桜本あたりらしい。当時はまだあったようだ。
作品としては、組合賛美、日本・ベトナムの人民の友好親善万歳というもので、そここに恥ずかしくなる台詞が出てくる。
音楽がいずみたくで、『この祖国』という曲が何度も出てくるのが、きわめて不快だった。多分、映画の制作自体にいずみが相当に金を出しているのだろう。
その曲は、今の日本を祖国と呼べないのが不幸だと言っているが、なぜ不幸なのか理解できない。祖国と言えなくて何が問題なのか、実に不思議な歌である。
いずみら、かつての「日本共産党・うたごえ運動」が、実は本質的に愛国的・民族主義的であることを示すものであろう。
映画史的には、森園忠監督の数少ない本編作品であることと、村野武範の『八月の濡れた砂』に先立つ出演作品であることが残ることだろう。
その後、フィルム・センターに移動するが、5時ぎりぎりで、溝口健二の景山英子を主人公にした映画『わが恋は燃えぬ』はすでに満員で入れず。誠に残念だった。