『愛情の系譜』

ラピュタの松竹メロドラマ特集、1961年11月公開、岡田茉莉子と三橋達也の共演は珍しい。
原作は円地文子、脚本八住利雄、監督五所平之助、音楽芥川也寸志の大船作品だが、撮影は木塚誠一、助監督も堀江らと、いつもの五所組の独立プロのスタッフによるものらしい。

アメリカ留学から戻った岡田は、福祉団体事務局にいて、留学中に知り合ったエリートサラリーマンの三橋達也がいる。岡田は、児童福祉施設の連中の面倒も見ていて、中に恋人のように慕う元ヤクザの少年宗形勝巳もいる。
岡田には、学生の妹桑野みゆきがいて、彼女は同じ法学部生の園井啓介と付き合っている。
姉妹の母親乙羽信子は、家政婦紹介所をやっている。彼女には本当は別れた夫がいるのだが、娘たちには戦死したことにしてある。
同じ円地の原作には、芦川いづみが、騙されて売春婦のようにされてしまう中平康監督の『結婚相談』もあるが、これも結婚商談所が舞台だった。

最近、桑野の金使いが荒くなったが、その理由は、別れた父親の山村聡に再会し、彼から小遣いをねだっていたからだった。山村は、北海道で大牧場主の乙羽一族の婿だったが、離婚して今では、大電気会社社長となっている。
有望社員の三橋には、女性実業家高峰三枝子が、娘の牧紀子との結婚を強く望み、三橋もそれを拒否しなくなる。
牧紀子の台詞が吹き替えになっていたが、もともと彼女はかなり低音のどすの利いた声であり、清純な娘役には相応しくないと五所監督が判断したからだろうか。牧紀子は、松竹でもトップクラスの美人女優だったが、台詞がひどく下手だったので、大成できなかった。今で言えば、真野あずさのようなルックスである。
岡田は三橋の心変わりに動揺し、一時は無理心中さえも考えるが、やっと想い止まる。
この心中を企てるところが、実は「愛情の系譜」で、乙羽は、山村とのことを一族に中傷され、湖で心中を図ったことあるのだ。
岡田が父の山村と再会し、心情を打ち明けるところなど、女性の心の細かい表現が、さすがに五所は上手い。
最後、岡田への愛を告白して拒絶された宗形が年上の情婦を刺殺したとき、岡田は宗形を迎えに行き、警察へ自首させる。その場所は、珍しいや鶴見の新芝浦の線路脇だった。

この後、どうなるのかは描かれていないが、岡田は多分弱い者の味方に立つだろう事が暗示されている。
この辺は、まさに五所平之助の面目である。
彼は、東宝の大ストライキのとき、本来共産党や組合とは正反対の自由主義者だったが、会社に対し「弱い者の味方をするのが人間だ」として、一環して組合側に立ち、有名な「来なかったのは軍艦だけの」米軍によるバリケード解除のときは、その先頭に立って退却した。
ラピュタ阿佐ヶ谷

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