増村映画のような今井正作品 『民衆の敵』

1946年に東宝で作られた民主主義宣伝映画。GHQのコンデの指示で作らされたという作品の一本。この時に、黒澤明も組合運動賛美『明日を創る人びと』を山本嘉次郎、関川秀雄と共同監督しているが、「自分の作品ではない」と言っている。だが、フィルムセンターの「高峰秀子特集」で私は見たが、まぎれもなく黒澤明作品の1本である。

今井作品は、脚本は八住利雄と山形雄策、財閥の悪を暴くもので、中堅の肥料工場が突然財閥に買収されて爆弾工場にされる。

工場長は河野秋武、工員は藤田進、花沢徳衛など。

財閥の社長は江川宇礼雄で、好戦主義者、だが財閥の理事長志村喬は必ずしも好戦的ではない。会社には、クラブのマダムの花柳小菊が出入りし、実は志村の隠し子であり、江川はそれをネタに志村の財閥支配を覆そうと考えている。いつもは着物の花柳の洋装は珍しいが、サマになっているのはさすが。

最後、戦争は終わり、江川は失脚し、志村が実権を完全に掌握し、花柳とも親子の対面が実現する。

工場は無事元の肥料工場になり、「農家に肥料を送るんだ」と藤田進が大会で叫び、「俺は、踊るぞ!」と言うが、残念ながら藤田進の踊りはなし。あまりに無様なのでカットしたのではないだろうか、藤田進の踊りなど見られたものじゃないだろう。それは、三船敏郎が『隠し砦の三悪人』で、きちんと踊ったのとは対照的である。中山千夏によれば、内輪の会で、三船はフラメンコを見事に踊ったことがあるそうで、戦前派の藤田とは違うのである。

全体にひどく誇張された筋で、演技も相当に大げさで今井らしくなく、まるで増村保造映画を見ているみたい。今井正が、こんな作品を作っているとは驚いたが、結構面白い。

横浜市中央図書館AVコーナー

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