『夢のシネマ・東京の夢』

引き続き、吉田喜重監督のドキュメンタリー作品。
元は東京メトロポリタン・テレビ(東京MXテレビ)で発表されたもので、19世紀末に映画、すなわちシネマトグラフィアを発明したフランスのリミエール兄弟は、すぐに世界中にカメラマンを派遣し、映画を撮影させた。
その一人、ガブリエル・ベールはメキシコ、中南米の撮影の後、1998年日本に来る。

だが、その映像は特に面白いものでも、貴重なものでもない。
何故か、それはどうやら彼が、日本のような欧州から遠い国に対するエキゾシズムに疑問を持っていたらしいからだ。
それを象徴する映像として、吉田はベールが来日する2年前にメキシコで撮った大統領やインディオへのショットに見る。
インディオは撮影されるのを嫌い下を向いているが、後ろの白人がインディオの顔を上げるようにさせたとき、撮影を中止している。
そこから、吉田は映画、そしてカメラは暴力と権力の装置であると結論付ける。
これは、正しく、同じ松竹大船出身の大島渚も、映画が被写体への暴力であると書いている。

このベールが撮影したフィルムの中で一番興味深いのは、田舎の田圃で足踏みの水車を回す農民の写真とフィルムである。
褌姿の男とその隣にいる上半身裸の女を、吉田は冬枯れの中に裸は不自然として、当時すでにこうした撮影に応じる職業があったと言っている。
職業があったとは思えないが、西欧人の要望に応じ、気楽に演じた人間がいたのだろう。多分、それは大道芸人ではないだろうか。
ベールが来日したのは、パリ万国博での上映素材の撮影と明治天皇への映画の上映だったらしい。
だが、どちらも結局叶わず、パリ万国博では、海外映画の上映をやめたリミエールのためベールらの作品は上映されず、明治天皇への上映はできず、皇太子、つまり大正天皇に天覧されたらしい。

映像中に、私の実家の池上本門寺が出てくる。
政府の密偵・高橋明がベールの人力車を追うシーンである。よく見えないが、東京で唯一の五重塔がある。
ここは、本門寺から上野寛永寺周辺へとつながれている。

このドキュメンタリーで最も面白いのは、監督吉田喜重のナレーションである。
抑揚がなく、棒読みのような独特のナレーションは実に作品にふさわしい。
一度聞いたら、絶対に忘れられない読み方である。

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