監督吉田喜重が語る小津安二郎映画である。
吉田喜重も小津も松竹大船撮影所にいて、共に監督としてかなり意識していたらしい。
有名なのは、正月の監督会の宴会で小津が吉田に酔って絡んだというエピソードである。
松竹ヌーベルバーグの一人として作品を発表していた吉田のところに小津は来て、「映画監督は、橋の下でこもを持ち男が来るのを待っている娼婦みたいなものだ」と言ったそうだ。
実に小津らしい韜晦した言い方である。
吉田は、サイレント時代の作品から晩年の作品までを紹介し、小津の映画は「現実の無秩序に秩序を与える映画」と言っている。
確かに小津の映画の持つ秩序はすごいもので、何も中身がないのにスタイルだけで秩序を作り出している。
この辺は、スタイルがやや似ている成瀬巳喜男との大きな違いで、成瀬は無秩序の現実になんの意味も与えない。
スタイルは似ているように見え、小津安二郎と成瀬巳喜男は全く異なる傾向の監督なのだ。