2年前にDVDでドキュメンタリー『ハーヴェイ・ミルク』を見て大変感心したが、今回劇映画化されアカデミー賞も取ったと言うので、「早くも公開か」と近くの黄金町のシネマ・ジャックに見に行く。
なんと劇映画化作品ではなく、前回も見たドキュメンタリーの上映だった。
でも、やはり面白かった。
ハーヴェイ・ミルクは、1970年代のサンフランシスコのゲイ・ムーブメントの中心の男で、1977年にサンフランシスコ市のカウンセラーに当選し、ゲイを始め黒人、アジア人、障害者、老人等の少数派の代表として活躍する。
だが、彼と協力した市長モスコーンと共に、1978年に白人保守派のカウンセラーのダン・ホワイトによって射殺されてしまう。
そして、犯人ホワイトは、白人のみで構成された陪審により軽い殺人罪になり、7年で出所してしまう。
その後、自殺してしまったそうだが、映画のような大変ドラマチックな展開である。
カウンセラーとは、一般に理事、参事と訳されているが、少数の参事が市政を分担して市長を補佐する制度で、アメリカでは市会議員の中から選ばれる市もある。
日本の地方制度(市政・町村制)でも、明治時代の一時期行われたことがある。言わば国の議員内閣制のようなものである。
サンフランシスコ市の場合は、市行政の担当局長を選挙で選ぶようなものだろう。
ミルクを典型に、出てくる人物が大変興味深い。
市長のモスコーンもポピュリストだったようだが、市政に功績があったということで、死後その名は、コンベンション・センターの名称になっていて、展示場モスコーン・センターである。
また、カウンセラーの同僚には、ダイアン・ファインスタインもいる。彼女は、その後上院議員になり、女性で最初の民主党副大統領候補になる。
それにしてもミルクというのは、ゲイということを除いても実に笑顔が魅力的である。
ふと、イエス・キリストというのは、こういう人間だったのではないか、と思った。
だからこそ、白人保守派の攻撃の的となり射殺されたのだろう。
彼の支持者だった組合幹部が言う。
「もし、犯人ホワイトが市長だけを殺したなら、重い殺人罪になっただろう。だが、彼はミルクも殺したので、刑が軽かったのだ」
なかなか意味深長な言葉である。ダン・ホワイトは、白人保守派の目の敵だったミルクも殺したので、減刑されたわけだ。
そして、この映画を見て一番感じるのは、アメリカ社会の大きさ、偉大さである。
ミルクやモスコーンは、殺されてしまうが、差別解消や人種平等への社会の動きはきちんとあり、それが昨年のオバマ大統領の誕生にまで至っているのだ。
アメリカは、嫌なところも多くあるが、すごい国だとつくづく思う。