バートン・クレーン

バートン・クレーンの名を知ったのは、昔コロンビアが出したLP『日本のジャズ・ソング』でだった。「戦前・戦中・戦後のポピュラー史」と副題された10枚組の大巻で、ジャズと言っても、ジャズ、タンゴ、ハワイアン、ロカビリー、シャンソンまで含むものだった。日本では、戦後1950年代末まで、ポピュラー音楽全般をジャズと呼んでいて、きわめて広い分野を含む名称だった。

このLPの1枚目「ジャズ・ソング流行す」の中に、日本のジャズ・ソング第1号の天野喜久代の『月光価千金』と共に、バートン・クレーンの『家に帰りたい』があった。
彼は、アメリカ人で英字紙の記者として日本にいて、日本語を話したが、宴会でのたどたどしい日本語の歌が話題になった。
そこで、コロンビアがレコードを作り、『酒が飲みたい』などは、結構ヒットしたらしい。
その後も、多数吹き込んでおり、20曲以上あったらしい。

それは、ほとんど聞けなかっのだが、数年前に石川茂樹さんと言う若い方がコレクション盤を作られた。
『バートン・クレーン作品集』(Neach Records NEARCH-0123)で、全部で25曲収録されている。

実に不思議と言うか、珍妙と言うか、変な外人が歌う日本語のポピュラー音楽である。世に「変な外人」は多くいるが、大変まともな感じを私は持つ。
1960年代の岡田真澄やE・H・エリック時代までは、まともだったようだが、近年のなんとかスペクター等は首を傾げざるを得ない。

そして、このバートン・クレーンの曲でおかしいのは、25曲中16曲の作詞が森岩雄であることだ。PCL、そして東宝の映画部門の責任者だった森岩雄である。
彼は、もともと評論家で、多才な人だったのだが、このノベルティー・ソングの作詞、訳詩までやっていたとは、さすがである。

LPの『日本のジャズ・ソング』には、美空ひばりが歌う『アゲイン』や『A列車で行こう』なども入っていて、後者などは、日本のどのジャズ歌手が歌うのよりも上手くてすごい。当時、ひばりは、英語が読めず、小野満にカタカナをふってもらって歌ったと言うが、英語のニュアンスがきちんと出ているのは本当にすごい。やはり天才なのだ。
CDになっているのかどうかは知らないが、なっていれば入手して損はないCDであることは間違いない。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする