川崎市民ミュージアムの今月は、脚本家馬場当の特集で、原研吉監督の1959年の映画『幸福な家族』という珍しい作品が上映されるので、見に行く。
原研吉は、サイレント時代は、小津の助監督をやっていた人で、西河克己が戦前に松竹で助監督として付いた監督でもある。
西河によれば、大変おしゃれな監督で、ロケに出ると、朝、昼、晩とすべて洋服が違う人で、女優よりも衣装行李が多かったそうだ。また、シュールレアリズムの研究家、詩人だったとも言われている。
だが、作品は全く見たことがないので、一体どういう作品を作ったのか興味深々で武蔵小杉に行く。
結果は、「こんなつまらないものを作っていたの」という監督だった。
原作が武者小路実篤、潤色馬場当、脚色松山善三、となっていた。
武者小路の原作をまず馬場がシナリオに書き、さらに松山が書き直したと言うことだろうか。
話は、大学生の石浜朗と三上真一郎が、刑務所にいる友人の恋人伊藤弘子から、貧乏な娘小山明子の仕事を世話してくれと頼まれる。
恋仲になった石浜と小山は、階級差を越えて最後は結ばれると言うもの。
だが、きわめて淡々としていて、ドラマも笑いも涙もなく、一体どこに感動しろと言うのか、と言いたくなるでき。自分のおしゃれには関心があっても、作品の出来には関心がなかったのだろうか。
小山の家は、バックにガス・タンクが見えるので、例によって東京の下町の貧困家庭で、小山は継母にいじめられ、嫌がらせをされている。この辺は、松竹得意の新派悲劇。
石浜家の父親は斉藤辰雄で、本当は翻訳家だが、素人油絵ばかりを描いている自由人。母親は水戸光子で、おきゃんな妹が九条映子という中流の円満家庭。
この二つの家庭の階級差が、中心のドラマなのだが、さして葛藤させないので、劇は深まらない。
あえて比較すれば、成瀬巳喜男の、高峰秀子が、根上淳と香川京子の中流家庭を憧れる映画『稲妻』を、大変ゆるくしたような筋書きとでも言おうか。
原研吉監督の一番の問題点を挙げるならば、女優をきれいに撮っていないことである。
九条は別として、小山明子と伊藤弘子(鈴木清順監督、小林旭主演の『関東無宿』に出ている)は本来美人女優だが、ここではあまりきれいに見えない。
こんなことでは、商品にならなかったのではないか。
九条らが、家の近くを散歩する川べりの長閑な風景が出てくる。
遠くに米軍の倉庫のごとき建物が見え、それは横浜市栄区公田にあった旧海軍の燃料廠ではないかと思った。そこは、戦後すぐは鈴木清順も学んだ鎌倉アカデミアが置かれたところであり、勿論松竹大船撮影所からはすぐ近くで、ロケ費節約のためには格好の場所だったはずだ。
川崎市民ミュージアム