鈴木清順監督の映画『百万弗を叩き出せ』にボクシング解説者の平沢雪村が出ていた。
この人は、当時ボクシング解説の第一人者だったが、きわめて日本人選手に偏った解説で有名だった。
頭山満の流れを引く国粋主義者だったのだから当然なのだが。
一番傑作だったのが、体重オーバーでバンタム級が無理になったファイティング原田が、フェザー級に上げ、オーストラリアのシドニーで、チャンピオンのジョニー・ファメションと戦ったタイトル戦の解説だった。
この試合で、原田はファメションにかなり問題の判定で負けたのだが、そのとき平沢が言った言葉がすごかった。
「これは、いかんですよ、完全な規則違反です。
ボクシングのリング・ロープは4本なのに、ここは3本しかなかった。
だから原田は、押されてリング下に落ち消耗して負けたのです。
これはいかんですよ、原田はファメションにではなく、3本ロープに負けたんです」
確かに、ロープ際でもみ合いになり、原田はリング・サイドに落ち、そこでかなり体力を消耗したのは事実だったと思う。
でも、全く驚いた。
すべてのスポーツ解説で、これほどの偏狭なものは先ず当時もその後もなかったと思う。
今なら、テレビ局に抗議の電話が殺到して、即クビに違いない。