『死の棘』 2005/7/2 演劇 全く期待しないで行った鐘下辰男・脚本・演出の『死の棘』がとても良かった。昨年の大竹しのぶの『喪服の似合うエレクトラ』以来で、原作と高橋恵子の力によるものである。 詳細は、明日以降に書く。
コメント
「死の刺」劇評
「死の刺」7月3日、楽日観劇。
私は、全く駄目でした。2時間20分、客席で拷問を受けているかのようでした。小栗康平の映画の「死の刺」を、2、3日前に見て、割と感心したのですが、この劇版にはひたすら失望しましたね。原作は純文学の極北と言われ、戦後小説のNO1に推す人も多いんですが、その由縁は悲劇が喜劇(笑劇ではなく)に転化してしまう点を、島尾敏雄が半ば無意識でしょうが、見事に描いた点にあると愚考します。愛人に七色のパンティを買ってあげて云々のミホの台詞があって、映画にもあり芝居にもありましたが、芝居のほうではクスリともできませんでした。全編、同じセンスの芝居でした。ただ怒鳴って、取っ組み合いをするの繰り返しで退屈なだけ。人生で最高の修羅場が卑小な笑うしかない情景に落ちていくというエッセンスを取り逃がして、「死の刺」を取り上げる意味がどこにあるのでしょうか。ミホは年中狂っていたわけではなく、ある切っ掛けを境にして狂気の世界に入っていくのだから、その境目をもっと丁寧に描いてくれればいいものを、そういう工夫は一切無し。水を多用した演出も、島尾の他作品をちりばめる手法も、「夢の中での日常」の一節が出てきましたが、単なる思い付きとしか思えず、何の興も覚えませんでした。悪しき「新劇」の復活なのか、原作のクォリティの高さ即ち演劇的クォリティの高さというのは、まんま「新劇的思考」であります、早く終わってくれないかと時計ばかりを気にしていました。唯一、高橋恵子の舞台俳優としての力量を認めるのに異論はなく、映像分野から進出の女優としては一番かもしれません。
鐘下の今までの劇と比較すればである。
従来の鐘下作品に比べれば、とても良かったのだ。
確かにノーテクニック、ノーアイディアの劇だ。
鐘下の劇はかなり見ているが、いつも評価できなかったのだが、一応最後まで見られた。その愚直さと真面目さが、島尾敏雄の世界と合っているように思えた。
高橋恵子の演技のすごさが70%くらいだが。あとの30%は、原作の台詞、描写の美しさであり、鐘下の演出が-15%くらいで、全体で85%の出来だろう。
最近の芝居のレベルはこの程度と言うべきではないか。