1960年、森繁久哉の主演で作られた映画で、共演は原節子、夏木陽介、江利チエミなど。
原作は、新派の作・演出が多い中野実で、家の本棚に彼の戯曲集『千曲川通信』の中に『褌医者』があったので、読んでみると、脇役の夏木陽介の性格付けが少し変えられているが、ほぼ原作どおり。脚本は、菊島隆三、監督稲垣浩、音楽団伊久麿。
幕末から明治初期、島田宿の田舎医者森繁と妻原節子の話。
これが珍しいのは、貞淑な美しい妻の原節子が、唯一博打が趣味であり、博打に原節子が負けて森繁が着物まで取られ、褌姿で博打場から戻るので、ふんどし医者と呼ばれている。
彼は、長崎で医学を勉強してきた蘭医だが、金持や武士の病気は見ず、貧困な農民の病を治すことに生きがいを感じている。
映画『赤ひげ』からテレビの『医龍』に至る「医者もの」の始りだが、黒澤明の『赤ひげ』に見るような異常さはなく、淡々と平明に筋が語られていく。そこが、監督の稲垣浩らしいところである。
ここで言われていることは、幕末から明治維新に行く過程で、時代が進歩し、若者の夏木陽介は、老人森繁の旧弊な知識を越えていくという時代の進化が信じられている。
その単純さには、今では驚くばかりである。
1960年代は、まだそういう時代だったのだ。
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