ぐらもくらぶのイベントとして、日本一のSPレコードのコレクター岡田則夫さんのお話を聞くイベントが開催された。
聞き手は、いつもの保利透氏。
岡田さんの収集歴は、学生時代にラジオの落語を聞いて好きになったことで、まずは金馬のSPの『じゅげむ』から。
本格的に落語を好きになったのは、正岡容(まさおかいるる)の本を読み感動したからで、正岡は落語家として高座にも上がったので、そのレコード『宝塚恋慕恋歌』も掛けられる。正岡は、40冊くらいの本も出していて、ほとんど入手したとのこと。
東京オリンピックの頃からSPの収集を始めたそうで、最初は電話帳の古物商に電話して聞くことから。
だが約500軒の東京中の店を聞いてしまうと、今度は「各駅停車作戦」で、鉄道の各駅停車に乗り、各駅ごとにに下りる。
駅前の自転車預かり店に行き、そこで「こういう店はありませんか」と聞く。
そうやって東京を終わり、さらに首都圏を回ったそうだ。
就職後は、全国を相手に収集旅。
極意は事前にはあまり調べないで、現地に行って当たることだそうで、事前準備をしすぎると仕事のようになって面白くないとのこと。
「道楽なのだから、効率を目指さず、ゆっくり楽しみながら長くやること」
そして、収集はいきなり細かい重箱の隅を穿るのではなく、基本的なところから始めれば、結果として富士山型のコレクションができるとのこと。
『レコード・コレクターズ』に『蒐集奇談』を連載するようになったのは、フジテレビの『花王マ名人劇場』のパンフレットに書いた原稿を中村とうようさんが見て、依頼が来たからだそうで、『蒐集奇談』という題名も、とうようさんが付けたとのこと。
SPでは、江戸川乱歩の『城ケ島の雨』等の珍盤も面白かったが、なんと言ってもすごかったのは、八代目桂文治の『祇園祭』だった。
これは、東西の男が、それぞれの祭りのお囃子を自慢して歌うものだが、そのリズム感が実に見事。
全体として、昔の芸人は、リズム感が良かったなと再認識した。
さらに、バスガイド、チンドン屋の口上等に活弁の語り口が残っていることがよく分かった。
活弁は、芸能史的には、映画の正統的な享受の妨げだったとして、否定的に語られることが多いが、その語り口は、現在の歌謡曲の前説(玉置宏ら)に生きていると思う。
世界的に見れば、サイレント時代に活弁のような説明者が付いたのは、日本、韓国、タイなのだそうで、西欧では、バンド、あるいはオーケストラの演奏のみだった。
日本における語り物の伝統の強さを示すものの一つだろう。
神田神保町 落語カフェ