淡島千景が亡くなった、87歳。
彼女の代表作と言えば、豊田四郎監督の『夫婦善哉』だろうが、あれは森繁久彌の主演作である。
私が好きなのは、1961年の松竹(といっても、にんじんくらぶ)作品で、渋谷実監督の『もず』を見る。
共演は、有馬稲子で、親娘、淡島が20の時に生み、その後夫が死んだので、松山の旧家から出て、東京で料理屋の女中をしている。
5歳で別れた有馬が、東京で美容師の本格的な修業をするため、有馬が出てきて、新橋辺の料理屋で20年ぶりに再会するところから始まる。
朋輩の女中が、乙羽信子、桜むつ子で、女将は山田五十鈴、主人は深見泰三。
再会したところに、愛人関係の会社社長の永井智雄がやって来て、淡島との間に痴態を見せる。
母に、女を見て幻滅する有馬。淡島は、まだまだ現役の女なのだ。
この淡島と有馬は、実際は8歳しか違わないのだが。
有馬は、場末の美容院で働き、そこに店を探して淡島が来て、話すシーンも大変感動的。
特に、松山崇の美術が凝っている。
店をクビになった淡島は、桜むつ子の叔母・高橋とよの家に下宿する。
この高橋とよ、桜むつ子、そして淡島と有馬が、有馬へのお見合い話で、騒ぎになるところが大変面白い。
高橋とよが最高である。
場面は一転して船橋ヘルス・センターで遊ぶ淡島と清川虹子になる。
淡島親子は、美容院の同僚岩崎加根子の近くの下宿に住んだ。
清川虹子は、田舎芸者だったが、夫の年金(恩給と言っている)で、悠々自適で二階を二人に貸しているが、清川の吝嗇ぶりも笑わせる。
そして最後、淡島は脳結核で倒れてしまい、治療費のために永井智雄のところに金の無心に行くと彼にやられてしまう。つまり、「親娘なんとか」になるわけで、このセコい社長の永井智雄もとても上手い。
さて、淡島は急死すると、預金通帳(通い帳)には6万円(今の金額では数百万)を有馬の名義で残していたことが分かり、有馬はやられ損だったことが分かるのも、渋谷実監督らしい皮肉。
武満徹の抒情的な音楽も美しく、渋谷実の演出も、この頃まではかなり鋭かった。
その後、渋谷は胃の手術をし、すっかり精力がなくなり、2年後の真理明美主演の『モンローのような女』では、まったくつまらない作品になっていた。
淡島は、近年はマスコミにもあまり出ていなくなっていたが、膵臓ガンとは、昭和天皇と同じで、真面目な人だったのだろう。
それにしても、驚くのは、有馬稲子よりも一つ年上81歳の八千草薫の異常な若さである。
やはり、アンチエージングのお力なのだろうか。