1953年、東京映画で作られた映画化2回目の『坊ちゃん』、監督は丸山誠治、脚本は八田尚之で、誇張や挿話の省略はあるが、その趣旨は原作に忠実なものだと思う。
主人公は池部良で適役だが、婆やの清は浦辺粂子、校長のたぬきは小堀誠、赤シャツの教頭は森繁久彌、山嵐は小沢栄太郎(当時小沢栄)、そしてうらなりは、瀬良明と大変な適役のキャスティング。特に、瀬良明がひょうたん顔で、ピッタリである。
生徒には、佐藤允、江幡高志らが見える。
話は、夏目漱石の原作なので言うべきこともない。
各キャラクターは現在から見れば類型的とも言えるが、上手く描かれているのに、今更ながら感心する。
映画としては、東京、松山の街並みが大変上手に再現されている。
どこで撮影したのか分からないが、まだこの頃は明治時代の街並みが再現できる都市があったのだろう。
松山は京都で撮った気もするが、川が道路の脇を流れているところから見て、柳川あたりのようにも思える。
音楽は、渡辺浦人で、監督の丸山誠治も京都大学時代は交響楽団にいたとのことで、俗曲から歌曲、SPレコードまでが出てくる。
因みに、渡辺浦人は、現代音楽の作曲家だが、映画やラジオの音楽も多数書いており、一番有名なのは「剣を取っては日本一の夢と希望の少年剣士」のドラマ『赤胴鈴之助』の主題歌も彼の作曲であり、ナベタケこと渡辺岳夫は長男、新国立劇場の初代の芸術監督の渡辺浩子は長女で、共に若死している。
5回作られた映画『坊ちゃん』の中では、多分最も良いできではなのは、監督丸山誠治の真面目な作風に、題材がよくあっているからだと思う。
特に、池部良が、大変思い入れて力演している。
これを見ると、池部良が大根役者とは言えないと分かるに違いない。
ラピュタ阿佐ヶ谷