1971年、美空ひばりが、結局は最後になってしまった出演映画2本。
『ひばりのすべて』と『女の花道』
どちらも東京映画で、井上梅次と沢島忠の監督、カメラは前者は記録畑の奥村祐二と東京映画のほぼ専属だった岡崎宏三、後者は山田一夫と、人員整理進行中の東宝なので、独立系スタッフを起用しての制作。
前者は、全国ツアーの記録だが、井上梅次は新宿コマや帝劇公演では、舞台上の美空ひばりを後ろからの超アップなど、多分特別に撮り足した映像を上手く当てはめて、さすがのテクニック。
新宿コマに男性歌手がゲストでカメオ出演しているが、なんと森進一、北島三郎に水原弘。水原弘はまだ生きていたのだ。おみず。
また、ひばり専属の司会者として西村小楽天が出ていて、懐かしかった。昔は、本当に名調子の司会者がいたのだ。
ひばりのライブは、新宿コマで見たことがあるが、ものすごく詰まらない芝居ととてもすごい歌の二部構成だった。
彼女は、どんな歌でも、その中に完全に入り、見るものに完璧な感動を与える。
そして、衣装の趣味の悪さもすごい、悶絶ものだった。
それも、記録されているが、このひばり母子の品のなさと情感の深さは、戦後日本人の姿そのものである。
『女の花道』は、江戸末期、出雲の勧進巫女のひばりが、京都で偶然に見た女狂言師杉村春子の舞に見せられ、弟子入りする。踊りではなく、舞だそうだ。舞と踊りがどう違うか、是非渡辺保先生の著作を読んでいただきたい。
乞食踊り子と同輩からは軽蔑されるが、杉村はひばりの才能を見抜き、後継にする。だが、幕末の騒乱が迫る。
歌舞伎の家元の田村高広に恋したひばりは、彼と結婚するが、そこでも田村の姉の藤波洸子に苛められる。
最後、尊王攘夷、天皇と徳川の闘いで、京の町も大半が焼け落ちる。蛤御門だったか、幕末の騒乱である。
この辺は、1971年当時の若者の反乱を映したものかもしれない。
京都の山辺の焼け跡に避難したとき、ひばりはかつて破門された杉村に再会する。
そして、民衆を勇気付ける為、ひばりは念仏踊りを踊り、民衆を鼓舞するのだった。この物語は、当初は出雲のお国をヒントに始められたのだが、途中で無理となり、この筋書きになったのだそうだ。一体、どこに支障があったのだろうか。
最後の踊りは、どうも民青の「歌声運動」を思い出して、白けるがひばりの歌と踊りは本当にすごい。
ひばりと厚情を交わす尊王派の志士に大出俊、杉村の弟子で新橋耐子など、文学座の若手の連中が出ていた。杉村春子とワン・セットで安く上げたのだろう。
原作は川口松太郎、脚本は沢島と岡本育子。
佐藤勝の音楽が大作らしい風格があって涙腺を大いに刺激する。
黄金町シネマジャック