急に映画『アラビアのロレンス』が見たくなり、阪東橋のTSUTAYAで借りてきて見る。
見るのは、多分3回目で、最初は高校生のときで、当時兄が(㈱)テアトルの株を持っていて、その優待券で、今はないテアトル東京で70ミリ上映で見たと思う。ここでは、『栄光のル・マン』なども見た。
2回目は、大学生の時で、どこかの名画座だったと思う。
今回、3時間40分の完全版を見て、やはり世界映画史上に残る名作だと確信した。
実際のロレンスは、小柄な男だったらしいが、ピーター・オトゥールが、ロレンスという複雑で矛盾した英雄に、まさに適役であり、相手のオマー・シャリフも威厳があって大変良い。
ロレンスのアラビアへの思いの根源は、映画では描かれていないが、本当に本物であり、それはアラブ文化への愛にも似た感情である。
そして、それは監督のデビット・リーンにも共通したところがある。
彼の作品は、この前作の『戦場にかける橋』のタイ、『ドクトル・ジバゴ』のロシア、さらに『ライアンの娘』のアイルランド、『インドへの道』のインドと、常に非西欧文明の地を舞台としている。
彼が、1950年代に来日し、日本の松竹と合作映画を作ろうとした作品に、『風は知らない』があり、来日して主演予定の岸恵子を見た彼は、一目で岸恵子を気に入り、映画化を決めた。
ところが、他の役者のスケジュールやロケ地インドの気候の関係で、『風は知らない』は流れ、その時、フランスから『忘れえぬ慕情』の企画が持ち込まれて来て、松竹はこれに乗った。
そして、監督のイブ・シャンピと主演の岸恵子は結婚してしまう。
『忘れえぬ慕情』は、大した作品ではなく、日本映画史的に見れば、「洋妾映画」の系列に入るものと言えるだろう。
最も、この『忘れえぬ慕情』はまだマシな方で、後に岸恵子主演で松竹で1961年にイブ・シャンピが監督した『スパイ・ゾルゲ 真珠湾前夜』は、『陸軍中野学校・開戦前夜』にも、はるかに劣る愚作だった。
デビット・リーンはアジア人女性が好みだったらしく、実際に結婚した相手はインド人だったそうだ。
このように、イギリスには、時として非西欧文明、文化をひどく愛好する者がいる。
小泉八雲、ラフカディオ・ハーンがその代表であり、音楽的に言えば、WOMADを始めたピーター・ゲイブリエルもその中に入るだろう。
なかなかイギリスには、興味深い人間がいるものである。