1960年の正月映画として公開された松竹映画、監督は木下恵介だが、この時の2本立てのもう1本は、五所平之助監督、有馬稲子主演の『わが愛』だった。
東京の会社社長小沢栄太郎の邸宅で起こる喜劇。焼き芋屋のオヤジ笠智衆が、邸宅の応接間で倒れてしまうことから起きる、小沢家の異常な人間たちのおかしさ。小沢の他、東山千栄子、久我美子、丹阿弥弥寿子、川津祐介、荒木道子らの主に金持ち連中のいびつな性格が暴露される。同時に笠智衆が住む木造アパートの織田政雄、賀原夏子、菅井きん、日野道夫らの貧乏人たちも金に目のくらんだ連中であることが対置される。
数少ない良心的な人間は、田中晋二、佐野周二、久我美子だけであるが、最後若い頃に恋を諦めた東山千栄子の相手が、実は笠智衆であることが分かり、独身の冷酷なオールドミスと思われた荒木道子が、小沢栄太郎と関係を持っていたことも暴露される。
大変面白い喜劇だが、同時にそこには木下恵介の、女性への嫌悪があるように思える。すべての女性は、いくら清ましていても、本当は愛欲に飢えているものだという偏見である。
フィルムセンター
コメント
ごめんなさい
私はどうも日本映画は薦められても肌に合わない感触が先で好きになれません。
「春の夢」を木下恵介の代表作に挙げる人はほとんどいないであろうが、これは(作品としての完成度はそれほど高くはないが)木下監督の喜劇的センスが如実に現れた一編である。
木下の有り余る才能は、お涙頂戴の「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾歳月」「永遠の人」などよりも「お嬢さん乾杯!」「春の夢」「今年の恋」などの軽いタッチの作品で、最も絢爛に開花したと思います。
「さすらい」様は『今年の恋』を「日本的ラブ・コメディーの傑作」と礼賛しておられるますが、小生は木下作品の中では「お嬢さん乾杯!」を一番高く買っています(勿論、『今年の恋』も大変愛着がある映画です)。
ちなみに、愛して止まないお気に入りベスト1のタイトル表示が、諸般の映画紹介雑誌などで「お嬢さん乾杯!」ではなく、「!」が欠落した「お嬢さん乾杯」となっていることが多く、それを見るたびに やりきれなくなります。
長部日出雄氏の「天才監督 木下惠介」という研究書でさえ、「お嬢さん乾杯」と紹介されています。
木下監督は相当お茶目な性格であったらしく、自分の作品の中で「楽屋落ち」ネタをよく扱っている。
「お嬢さん乾杯!」では「愛染かつら」の主題曲「旅の夜風」のメロディーが流れるし、「風前の灯」では佐田啓二・高峰秀子夫婦の家のラジオから前作「喜びも悲しみも幾歳月」の主題歌が聞こえてきます。
題名は忘れましたが、好敵手・黒澤明の「わが青春に悔いなし」のパロディーもどこかにありました。
大笑いしたのは、「歌え若人達」で、ある学生が「今度、松竹の入社試験を受けることになった」と言うと、別の学生が「松竹はいい映画会社だ。あすこには木下恵介という偉大な監督がいるからな」と語らせている。
この「春の夢」は全編が「楽屋落ち」で詰め合わされていると言ってもいいような、愛らしく、楽しい映画だった。
お言葉ですが、木下恵介作品でまったく感心できないのが、『お嬢さん乾杯!』です。『この天の虹』や『死闘の伝説』にも違和感を感じますが。民謡(佐野周二)をクラシック(原節子)が笑うというセンスが納得できないのです。佐野を田舎の粗野な男とするのもひどいミス・キャストだと思うのです。
木下で凄いと思うのは、『女の園』や『日本の悲劇』だと思います。
歴史的に見れば、木下恵介は、小津安二郎の倫理性を受け継いでいて、それは大島渚に行ったと思うのです。大島の次は、水川淳三に受けつがれたと思うのですが、松竹の没落であまり発展しませんでしたね。