『女優』

1947年12月に公開された東宝作品、松井須磨子をモデルにした映画で、脚本は久板英二郎と衣笠貞之助、監督は衣笠で、主演は山田五十鈴。

山田の相手役で、島村抱月にあたる先生は、土方与志。

戦前、新劇のメッカと言われた劇場の「築地小劇場」の建設資金は、土方家の財産から出たと言われており、当時最高の新劇演出家である。

この映画公開の約2ヶ月前、日本映画演劇労働組合の主催で、東宝争議に協力支援する目的で、後楽園球場で『芸術復興祭』が行われた。

これは、戦前の弾圧、戦争、そして敗戦、そこから立ち上がる人民をページェントとして描くもので、司会山本嘉次郎だが、総指揮は、土方与志だった。

その他、須磨子の前夫を思われる男の石黒達也をはじめ、須磨子の兄に河野秋武、劇団員に伊豆肇、松崎勲、土方の妻に赤木蘭子など多彩な俳優。

森繁久彌も端役で出ていて、これが映画初出演だそうだが、赤木の娘が千石規子とは驚く。

溝口健二監督、田中絹代主演の『女優須磨子の恋』と比較され、衣笠作品の方が評価が高いが、確かにこちらの方が多彩で、群像劇で面白くできている。

その点、溝口作品は、田中のほぼ一人が異常に頑張る作品になっていて、その分不利である。

また、衣笠作品に土方が主演している示されるように、この映画は、当時の東宝ストに象徴される映画界の民主化運動の一環になっていたと私は思う。

その点で、この「意義ある運動」に参加、協力、支持することに大きな意味を与えられていたと推測する。

それが、キネマ旬報ベスト10での、衣笠作品の5位と、溝口作品の18位の差になったのだと思われる。

この時の選考委員は、飯島正ら21人だった。

横浜市中央図書館AVコーナー

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