『バンド・ワゴン』

・部分的には、『ザッツ・エンターテインメント』などで見ていたが、通して全部見たのは初めて。
アステアやチド・チャリシーらのダンスが凄いのは、いまさらだが、脚本も非常に上手く出来ている。
バンド・ワゴンとは、楽隊を乗せた馬車のことで、バンドの元は宗教の宣伝隊のことであろう。
ここでは、新作ミュージカルが、ニューヘブンでのプレビューで失敗した後、東海岸の地方都市を廻って修正、改作し無事ニューヨークのブロードウェイで凱旋することを意味している。
嘘八百のように投資家に新作を説明し、スタッフ、キャストを集めてプロデューサーが新作ミュージカル『ファウスト』の製作にに着手する。
アステアは、古いミュージカル映画スターで、若い連中と上手くできるか不安だが、若手女流ダンサーのチド・チャリシーの素晴らしさに心を奪われて参加することにする。
準備の段階が面白く、途中でアステアは、切れて「もう来ない」と部屋に籠ってしまう。
すると、チャリシーが来て、一緒に町に出て、馬車に乗って公園に行き、そこで「ダンシング・イン・ザ・ダーク」を踊って仲直りする。
本当は、こういう楽屋もめの時は、すぐに製作者が来て、慰めるものだと千谷道雄さんの名著『幸四郎三国志』には書いてある。
ここでは、ラストでアステアとチャリシーが結ばれるので、その伏線で彼女が来たのだろう。

私も、20代の最後、自分たちの劇団で、ある劇を稽古中に、演出と主演女優がある日大喧嘩になった。
私は、もちろん盟友だった演出の方の肩を持った。
本当は、すぐ翌日にでも女優のところに行くべきだったのだが、その日は役所の仕事で、福山市に行くことになっていた。
新幹線から何度も電話したがつながらず、戻ってからは演出家との対応で追われてしまった。
いつの間にか、彼女も稽古場に戻り、無事劇は公演できた。
だが、一度入った亀裂はその後も修復することはなく、その年の秋に、私たちがやっていた劇団は潰れた。
今思えばなんて浅墓で、若かったのかと思う。

最後、ブロードウエーでの公演に成功した夜の興奮に感動しない者はいないだろう。
「ザッツ・エンターテインメント」の大合唱でエンド。
フィルムセンター

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