会場は、オルタナティブ・スペースとして有名なプランBで、予約し、ヤフーの道案内で地図を印刷して歩き、そのマンションに入るが地下への階段がない。
電話すると「指田さんですね、玄関からではなく通りの方に回って来てください。上映を待っていますので」との答え。
こういう受付が良い時は、作品も素晴らしいに違いないと思うと、その通りに優れた作品だった。
映画は、北村皆雄の脚本・監督で、幕末に主に北伊那地方を徘徊し、俳人として活躍した井上井月(いのうえせいげつ)を描く記録映画である。
と言っても、主人公を演じるのは、舞踏家の田中泯氏で、概ね井月を演じるが、ときには田中泯自身のときもある。
井月は、文政5年、1822年に越後長岡に生まれ、武士の家だったようだが、江戸、もしくは京都あたりで和漢の学問を学び、松尾芭蕉に私淑した。
北は象潟、西は明石まで歩いたが、嘉永年間、1840年代から長野に足跡を残し、1858年安政5年に伊那に来る。
このとき37歳、それから伊那地方の俳句を嗜む人の間で生き、俳句を作り、送り、寿ぐなかで生きた。
それは、古来から日本の村々に、正月のお祝いを初め、さまざまな芸能、宗教、商品等を携えて来た、ほかいびとの系列に連なる人だった。
別に見れば、乞食であり、生活者、農民の施しにに寄生する世捨て人でもあった。
こうした井月の姿、一生を伊奈地方にまだ残る行事、祭礼等を背景にしながらじっくりと淡々と描いて行く。
2時間という大作だが、少しも退屈ではない。
ハイビジョン撮影の画面が非常に美しく、音楽もいいなあと思うと、一柳慧だったのは、さすが。
帰りに「一度伊奈地方に行きたくなりましたよ」と言うと
「本当に映画のようにきれいなところらしいですよ」とのご返事。
本当に今年のいつか北伊那に行って見たくなった。
中野プランB