1955年の日活作品で、銀座の芸者置屋の女将轟夕起子の話、監督は吉村公三郎で、脚本は新藤兼人と高橋二三。
感じとしては成瀬三喜男の名作『流れる』をもっと通俗的、喜劇的にしたのを想像してもらえればよい。
轟には、旦那の国会議員の清水将夫がいるが、外遊から帰国した後、彼から「子供たちが大きくなったので」と手を切られる。
でも、彼女には、生活を面倒見ていて、いずれ自分の養子にするつもりの大学生長谷部健がいる。
彼は、東工大の学生だが、小説を書いていて、かつての朋輩で今は銀座でバーをやっている日高澄子の妹・北原三枝も、文学少女。
長谷部と北原は、
「エグジステンシャリズム、サルトル、カミユ」などと会話している。
長谷部はいい加減な男で、病気で寝ている時、見舞いに来た日高澄子ともできてしまう。
そこに轟夕起子がやってきて、女二人の喧嘩になるが、長谷部は、それを元にして
「これでやぅとよい小説が書ける」と言い、本当に文学賞を授賞してしまう。
気のよい二人は、長谷部のお祝いをしてあげるが、その席で長谷部は、二人に今まで世話になった金を文学賞の金で返すという女心の分からない仕打ちをする。
最後轟の置屋が火事で半焼になり、放火とのことで大騒ぎになる。
長谷部に逃げられたことで原因という轟、税務署員の兄浜村純が銀座から三鷹に転勤になった途端にお客がいなくなり、むしゃくしゃしたという乙羽信子が犯人と名乗り出る。
だが、真犯人は、田舎から女中奉公に来ていた少女が、田舎帰りたさにアイロンを点けっぱなしにしたことであることがわかる。
冒頭で轟由起子の昔の朋輩で飯田蝶子が北多摩の「養老院」に入所する件があるが、この時なんと飯田蝶子の役の「年齢は63歳」とのこと。
63で養老院なら、我々は全員特別養護老人ホーム行きになる。
女中奉公の少女が銀座から隠れて月島の診療所に行く場面で、勝鬨橋が上がっている映像が出てくるのは、非常に貴重。
撮影は、宮島天皇こと宮島義勇なので、端正な画面が優れている。
長谷部を脅して金を巻き上げる、清水将夫の息子の不良学生が、宍戸錠とは笑える。
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